○○「どうして名前を変えて、街で遊んでたりするんですか?」
リカ「……皆の遊びが面白そうだから?」
一国の王子という身分にも関わらず、自由気ままに街を出歩くリカ……
○○「面白そうって……本当にそれだけが、理由なんですか?」
リカ「うるせえ女だな。そう言ってるだろ?」
(護衛を一人も連れずに、街を遊び歩くなんて……)
○○「もし、誰か悪い人に命を狙われたり、事件や事故に巻き込まれたらどうするんですか?」
リカ「……俺が?」
○○「今の会話でリカ以外に誰がいるんですか!」
リカ「ああ……それもそうか」
○○「そうか、じゃないですよ」
リカ「ははっ、心配しすぎだって!」
うつむく私を見て、リカが夜だというのに大きな声で笑い出した。
○○「笑いごとじゃ…―!」
ー----
リカ「どうだった?」
兵士「リカ様のご提案の通り、見回りのルートを変えましたら、先日の犯人も無事捕らえられました! 街の者達も感謝しているようです。さすが、リカ様です」
ー----
○○「この前、中庭で兵士と話してるのを聞きました。 犯人がどうとかって、やっぱり危ないんじゃ…―」
リカ「だから、そのための市内警備だろっ!」
○○「……っ」
一瞬、真面目な顔になって、リカは声を大きくした。
リカ「俺の国は、そんな悪いことが万が一にでも起こるような政治はしてない。 犯人って言ったのだって、あれはただの食い逃げ犯だ」
○○「え……食い逃げ……?」
リカ「そう、ショコラの食い逃げ。 この国でショコラは有名だろ? 季節の変わり目は新作も数多く出るから、ちょっとした観光地になるんだ」
○○「そう……だったんですか」
呆気に取られて、ポカンと口を開けるしかない。
リカ「だいたい俺の国は治安がいいことで有名なんだよ、襲われるとかありえない。 それに、街の奴の輪の中に入って、初めてわかることもあるしな」
そう口にする彼の顔は、確かに一国の王子の顔だった。
凛々しい瞳は、責任感に満ちていて、先ほどまでの奔放さは見られない。
○○「リカ……」
(ちゃんと……国のことを考えて、街で過ごしてるんだ)
リカ「何?」
○○「ごめんなさい……私、何もわかってなくて」
リカ「……」
リカは、彼の首筋にある刺青に右手で触れながら、静かに瞳を閉じた。
リカ「……別に。本当に街には面白いから行ってるだけ。 俺はあそこが好きだから、変なことが起こったりしたら俺も困るし」
ー----
従者「リカ様、今度の市議会での議題ですが…―」
リカ「ああ、街の者とすでに打ち合わせている。問題ない」
ー----
その言葉に、城で真剣な顔で政務を行う、リカの様子を思い出した。
胸の鼓動が早くなり、私は知らずのうちに彼の瞳に見惚れていた。
(何だろう、この気持ち……)
高鳴る胸をぎゅっと手で押さえて、じっと彼を見ていると……
リカ「ははっ」
突然、リカが可笑しそうに笑い出した。
○○「な、何?」
リカ「不用心だとか、俺の心配してるけどよ……お前、人のこと言えねえな」
○○「どういうこと?」
リカ「呆れたヤツ……わかんねえのか?」
彼の言葉の真意がわからず、瞳を瞬かせていると…―。
リカ「まったく……危機感ないのはどっちだよ」
○○「っ!?」
不意に、彼の指先が強引に私の体を引き寄せた。
壁際に背中を押し付けられて、気づけばあっという間に、目の前にはリカの不敵な笑みが迫っていた…―。