○○「なんだか意外でした」
リカ「何が?」
○○「リカさん、城の皆さんにも街の人達にも慕われているようだから」
私の返事を聞いて、いきなりリカさんは吹き出した。
○○「あの……」
私に対して、出会った時からずっと不機嫌そうな顔をしていたリカさんが、今は、顔をくしゃりと崩して笑っている。
○○「私……何か変なこと言いましたか?」
可笑しそうに笑う彼に、恐る恐るそう尋ねてみると…―。
リカ「ヘンっていうか。ってことはお前、俺が皆から怖がられてるって思ってたんだ?」
(あ……)
○○「ごめんなさい! あの、そういう意味じゃなくて」
しどろもどろになって、言い訳を探していると……
リカ「お前も、俺のこと怖いって思ってたわけ?」
○○「そんなことは…―」
リカ「じゃ、どう思ってんの?」
不意に、リカさんが真剣な表情になる。
今までの彼を思い出して、私は……
○○「楽しそうだなって思います。街にいる時は特に」
リカ「へえ……」
リカさんが、面白そうに目を細めた。
そのまま、しばらく沈黙が流れて……
○○「ご、ごめんなさい。私、失礼なことを……?」
リカ「別に?」
リカさんが小さく首を横に振ると、陽に透ける綺麗な髪と一緒に、金色のピアスがシャラリと揺れる。
リカ「けど、お前そういうこと面と向かって言うか? やっぱりヘンな奴」
○○「……聞いたのは、リカさんです」
どう返していいかわからず、戸惑ってしまう。
すると彼はそんな私を見て……
リカ「……」
ふっと表情を緩めた。
かすかに、だけど優しく下げられる目尻に、また胸が小さく音を立てた。
(こんな表情……初めて見た)
(リカさんは、本当はどんな人なんだろう?)
掴みどころのない、不思議な王子様……
私はいつの間にか、リカさんの存在が気になって仕方なくなっていた…―。
…
……
それから……
従者「リカ様、今度の市議会での議題ですが…―」
リカ「ああ、街の者とすでに打ち合わせてる。問題無い」
従者「はっ」
リカ「……」
青年1「またダークの勝ちかよ!」
リカ「ハハッ! お前、ギャンブル向いてねえってこと、いい加減わかった方がいいぜ?」
青年1「くっそ! もう1回だ!!」
リカ「何度でも。その代わり俺が勝ったら、あの店の高級新作チョコレート、全部お前のおごりな」
城でのリカさんと、街でのリカさん……
彼がその表情を変える理由がわからないまま、日が経っていった。
けれど…―。
リカ「おい、○○! ちょっとこれ、食べてみろよ!」
○○「わ……少し苦いけど……とってもおいしいですね!」
リカ「だろ? あいつの店の新作だってさ」
リカさんは、私に街で見せるような笑顔を向けてくれるようになっていた…―。
こうして城に滞在し続けている、ある日の夜…―。
夜、なんだか眠れなくて部屋を出ると、廊下でリカさんの姿を見かけた。
リカ「……」
月明かりに照らし出された彼の黄金色の瞳が、不思議な輝きを帯びている。
○○「リカさん」
声をかけると、リカさんが眉をひそめて不機嫌そうな顔をする。
(怒ってるわけでは、ないんだよね)
いつしか、私も彼の表情に垣間見える気持ちを、なんとなく察せるようになっていた。
リカ「いつまでもリカさんリカさんって……面倒だ、リカでいい」
○○「いいんですか?」
リカ「不満かよ?」
○○「そうではないんですけど……」
(リカ……)
声に出さず、胸の中だけで名前を呼んでみる。
少しだけ彼との距離が近づいたようで、嬉しい気持ちが胸に広がった。
リカ「それよりお前、こんな夜中にどうした。眠れないのか?」
○○「あ……はい」
リカ「……」
リカは視線を外に移した。
真っ暗闇のなか、どこか遠くからフクロウの鳴き声が響いてくる。
リカ「じゃ、話でもするか?」
リカさんは一瞬だけ考えてから、くすりと笑みをこぼした。
リカ「俺の部屋で」
トクンと、胸が音を立てる。
(こんな時間にお部屋にいってもいいのかな……でも)
(リカさんのことが、知りたい)
○○「はい。私も、お話したいと思ってました……お邪魔してもいいですか?」
彼の真剣な眼差しを受けて、そう答えてしまっていた。
リカ「ああ」
…
……
そして私は、リカの部屋を訪れた。
彼の部屋は物があまりなく、小ざっぱりとした印象だった。
リカ「で、話って? 何か聞きたいことあるんだろ? 特に、俺のこととか」
○○「!」
テーブルにあったビターチョコレートをひとかけら手にして、彼は私に笑いかけた…―。