リカさんにこの国に招待された私は、数日間城にお世話されることになった。
けれど…―。
リカ「そうか……じゃあ、ゆっくり過ごせよ。俺には決まった予定はないからいつでも付き合ってやる」
そう言ってたリカさんは、毎日街へ行っているようで、城にはほとんどいなかった。
明るい陽射しが降り注ぐ中、中庭に出てみると……
(あ……)
リカ「……」
リカさんが、ベンチにひとりで座っていた。
気だるそうにため息を吐いて、空を仰ぎ見ている。
(リカさん……?)
その瞳が寂しそうに揺れた気がして、なぜだか胸が詰まった。
○○「リカさ…―」
兵士「リカ様、先日の市内警備の件ですが……」
声をかけようとしたとき、城の兵士さんがリカさんのもとへとやってきた。
リカ「……どうだった?」
兵士「リカ様のご提案の通り、見回りのルートを変えましたら、先日の犯人も無事捕えられました! 街の者達も感謝しているようです。さすが、リカ様です」
リカさんを前にして、尊敬の眼差しを兵士が浮かべている。
(リカさん、お城の人達に敬われてるんだ)
リカ「そうか、それは良かった」
リカさんがかすかに笑う。
その顔は、凛とした王子様らしい顔つきだった。
(あんな顔もするんだ……)
柱の影からその様子をうかがっていると……
リカ「……」
こちらに気づいたリカさんが私を見て、眉をひそめた。
(え……)
リカさんは兵士さんに手を上げて軽く挨拶をすると、こちらへ大股でやってくる。
リカ「……」
(立ち聞きしてたこと、怒ってる……?)
不機嫌そうなリカさんの表情に、身を固くしていると…―。
リカ「おい、お前、今日暇か?」
○○「え?」
そう、リカさんに問われて……
○○「はい、特に予定はないです」
そう言うと、リカさんが少しだけ笑ってくれた気がした。
リカ「ならすぐに出掛ける準備をしろ、街に出たい。 天気いいし、城の中いても暇だろ」
(よかった……怒ってたわけじゃなかったんだ)
安堵でほっと息を吐く私を見て、リカさんが怪訝そうな顔をする。
リカ「何だよ」
○○「い、いいえ」
リカ「行くぞ」
私はリカさんに半ば強引に誘われて、ショコルーテの城下町へ出掛けることにした…―。
ショコルーテの街は、今日も甘い香りを漂わせながら、賑わいを見せていた。
リカさんは特に目的があるわけでもないようで、私を連れて街を歩き回っていた。
途中、広場に戻ると……
街の青年「ダークじゃないか! 久しぶりだな」
リカ「ん……? ああ、お前か」
街の青年「お前か、じゃねーよ。今度うちの店で新作を出すことになったんだ。 サービスしてやっから、今度また昼飯でも食いに来いよ」
リカ「どうだかな。この前のは、ちょっとデザートが甘すぎだったし」
言葉は皮肉めいていたけれど、リカさんも、青年に楽しそうに笑いかける。
その顔は、城の中庭で見た表情とは全然違う、無邪気な笑顔だった。
街の青年「手厳しいなあ。ま、お前の味覚は頼りにしてるよ!」
青年は屈託ない笑顔のまま、リカさんに手を振って去っていく。
(そういえば、どうしてリカさんは街ではダークって呼ばれてるのかな?)
○○「……」
リカ「なんだよ、人の顔じろじろ見て」
目をすがめるリカさんに……
○○「お二人が、すごく楽しそうだったから、いいなって」
そう言うと、リカさんは照れくさそうに頭を掻いた。
リカ「ああ……あいつは昔からの知り合いだから。 あいつは、この辺りでレストランをやってる店主。 昔からこうして忍びで街に出た時は、よく飯食いに寄るんだ」
(お忍びっていうわりには、堂々としてるけど……)
○○「なんだか意外でした」
リカ「何が?」
○○「リカさん、城の皆さんにも街の人達にも慕われているようだから」
リカ「……」
私の返事を聞くなり、リカさんはぷっと吹き出した…―。