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リカ「バカ、こんな街中で俺の名前呼ぶんじゃねーよ」
若者「おい、どうかしたのか、ダーク?」
リカ「ああ、なんか俺のこと、知り合いと間違えたみたい」
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その後…―。
街で賭け事を終えたリカさんに連れられて、私はショコルーテの城へとやってきていた。
街と同じように、城の中も甘い香りに満ちている。
リカ「あー、焦った。お前、驚かせるなよな……ったく」
〇〇「えっと……」
城門へたどり着いた時も、リカさんはきょろきょろと辺りを見回していて、落ち着かない様子だった。
(いったい……どういうことなんだろう)
聞いてみたいと思うものの、リカさんは終始、不機嫌そうで……
聞くに聞けずに首を捻っていると、城の兵士が彼の姿を見て姿勢を正した。
兵士「リカ様、おかえりなさいませ」
リカ「ん、今、戻った。トロイメアの姫を招待した。急ぎ侍女に部屋を用意するよう伝えてくれ」
兵士「トロイメアの……? はっ、かしこまりました!」
兵士さんは私を見て、一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに深く頭を下げた。
リカ「準備ができるまで、中庭でお茶して待ってるから。急げよ?」
〇〇「あ…―」
リカさんの綺麗な指が、私の手首をぐいと掴む。
彼は兵士の返答を待たずに、私を引っ張るように中庭へ連れ出した…―。
…
……
中庭には、白いテーブルセットがしつらえられていた。
リカ「悪いな。呼んでおいて準備もできてなくて。 ま、俺が街に行ってて、伝えるの忘れてただけなんだけど」
リカさんは悪びれる様子もなく、無表情で私に言葉を投げかける。
〇〇「あの、さっき『ダーク』さんって、呼ばれてませんでしたか?」
リカ「そんなのどうでもいいだろ、それよりお前も座れよ」
〇〇「……はい」
リカさんは、白塗りのガーデンチェアにどかりと腰を下ろした。
私も促されて、彼から少し距離を離したところに座ると……
〇〇「……っ」
ぐっと間を詰めてきて、リカさんが私の顔を覗き込んだ。
ふわりと甘い香りが、私の鼻をくすぐる。
(この香りは、チョコレートの……)
黄金色の鋭い瞳が、じっと私を見つめている……
(顔が近い……!)
頬にわずかに熱を持ち、膝の上できゅっとスカートを握りしめる。
リカ「俺のこと、知りたいの?」
からかうようなリカさんの視線に、私は……
〇〇「はい……」
私の答えを促すようなその視線に、蚊の鳴くような声でそう答えると……
リカ「……」
リカさんは私に、確かめるような視線を向けている。
切れ長の目が細められる様子に、トクンと胸が緊張に高鳴る。
リカ「へえ……」
〇〇「……」
(こんなにじっと見つめられたら……)
そっと視線を上げて、リカさんと目を合わせる。
(何を……考えているの?)
無表情で私を見つめるその瞳からは、感情をうかがい知ることができない。
〇〇「あの、リカさ…―」
思いきって、彼に問いかけようとしたその時…―。
執事「リカ様、〇〇様のお部屋の準備が整ってございます」
〇〇「……!」
背後から、老齢の執事に声をかけられた。
緊張が解かれたからなのか、一気に肩の力が抜けていく。
リカ「そうか……じゃあ、ゆっくり過ごせよ。俺には決まった予定はないからいつでも付き合ってやる」
〇〇「はい。ありがとうございます」
リカ「じゃあな」
リカさんは私の返事を聞くなり、勢いよく立ち上がってその場から去っていった。
(偽名を名乗っていたり、王子様なのに賭け事をしていたり)
(不思議な人……)
去っていく大きな背中を見て、私はそんなことを考えていた…―。