市街地には、チョコレートの甘く芳醇な香りがいっぱいに広がっていた。
(街の中まで、おいしそうな香りでいっぱい)
メインストリート脇には、さまざまな種類のチョコレートショップがずらりと並んでいる。
見てるだけでも心が弾んできて、足取りも軽やかに歩いていると……
??「やった、俺の勝ちだ!」
(あれ、この声って……)
聞き覚えのある声が、街角の店から私の耳に届く。
扉から店の中を覗いてみると……
青年「また、お前の一人勝ちかよ!」
??「悪いな」
(やっぱり、リカさん……!)
店内では、リカさんと数人の青年達がカードゲームに興じているようだった。
勝者となったリカさんの前に紙幣が集められている。
(賭け事? 王子様が、こんな街中で……?)
リカ「今日は俺の一人勝ちだな」
この上なく楽しそうに笑うリカさんは、私の姿には全く気づいていない。
〇〇「あの……リカさん?」
リカ「ん?」
私の姿を認めたリカさんの、それまでの楽しそうな表情が一変する。
リカ「な……! お前!!」
〇〇「あ……こんにちは。お城へ向かおうと思っていたんですが…―」
すると、リカさんは慌てて立ち上がってこちらへやってきた。
リカ「な、何でお前がここに…―」
整った顔が、わずかに歪んでいる。
リカ「ああ……俺が呼んだんだっけか……くそ、忘れてた」
前髪をくしゃりと掴みながら、ため息を吐くリカさんに、私は……
〇〇「何をしてるんですか?」
リカ「見りゃわかんだろ。ポーカーだよ」
彼は自分を落ち着かせるように、一つ咳払いをした後……
リカ「バカ、こんな街中で俺の名前呼ぶんじゃねーよ」
後ろの青年達には聞こえないような小さな声で、私に話しかけた。
すると…―。
若者「おい、どうかしたのか、ダーク?」
リカ「!!」
(ダーク? リカさんじゃなくて?)
ダーク、と呼ばれたリカさんは、私を置いてテーブルへと戻る。
リカ「ああ、なんか俺のこと、知り合いと間違えたみたい」
何事もなかったかのように、リカさんは青年達に笑いかけた。
若者「ははっ、そりゃあ、お前なんかと間違えられた男がかわいそうってヤツだ!」
リカ「負けたからって負け惜しみはダセーから」
(……どういうこと?)
リカさんの姿を確かめるように見ていると、私の視線に気づいた彼は……
リカ「あと一勝負で終わる。待ってろ」
〇〇「は、はい」
こちらを振り向いて、本当に小さな声で一言だけ残すと、賭け事を再開した。
リカ「よっし! また俺の勝ちだな」
青年「あーくっそ! 次だ! 次!!」
リカ「何回やったって、一緒だって」
楽しそうな彼らの笑い声が、店内いっぱいに響いていた…―。