それから…-。
ミカエラさんは精力的に自らの意見を通すために、アルビトロの重鎮達を必死の思いで説得し始めた。
そして…-。
数日が経過した頃、再び議会が開かれた。
ミカエラ「この度はもう一度、禁止区域と翼が黒色化した者達の問題を取り上げたいと思います」
議員1「またですかな、ミカエラ殿」
ミカエラ「それは貴方達の方です。問題から目を背けていては、この国は何も変わらないのです!」
議員2「だがしかし…-」
朝から始まった議会は、答えの出ない議論を繰り返す。
(私に何かできることはないのかな……?)
自らの理想を果たそうとする姿を見て、私は思わず立ち上がった。
○○「私からもお願いします」
議員1「あなたはトロイメアの……?」
議会の場が騒ぎ出す。
○○「私はあくまで、第三者としての立場ですが……」
必死の思いで議長と思われる方を見つめると、その人が静かに頷いてくれた。
議長「……聞かせてください」
○○「ありがとうございます」
深呼吸をして、自分の思いを言葉にする。
○○「問題を無視し続けて迫害を続けたら……争いが生まれる可能性だってあります。 何より、同じ国の人同士で憎しみ合うなんて……悲しすぎます」
ミカエラ「○○……」
○○「この数日間、私はミカエラ王子にお世話になりました。 彼は決して、私情で訴えているのではありません……国のことを、誰よりも思い、行動しています」
私は心から訴えた。
やがて…-。
議員1「ふむ……なるほど」
議員2「確かに、黒い羽を持つ者と諍いが起きた、というのも耳に入ってくる」
議員3「目を向けるべき問題として、扱う時が来たということか……」
議員達はその場で話し合いを始め、今後前向きに検討することが決まったのだった…-。
…
……
その決定は、瞬く間に審判の国に留まらず天の国にまでも広がった。
そして数日後、ミカエラさんと私が城から審判の国の広場に出ると……
黒い翼の青年「ミカエラ様だ! ミカエラ様がいらっしゃったぞ!」
黒い翼の女性「ありがとうございます、ありがとうございます!」
ミカエラさんの姿を見かけるなり、広場に集まっていたらしい黒い翼をもつ人々が駆け寄ってくる。
ミカエラ「皆さん……もう少しです、あと少しできっと平穏な日々が戻ってきますから」
人々から次々に伸ばされる手を、ミカエラさんは一人一人しっかりと握りしめる。
(よかった……)
(少しずつでもきっとこの国は、この先いい方向へ変わっていける)
黒い翼を持つ人々の笑顔に、私は胸の奥が澄んでいくのを感じた。
…
……
やがて人々が広場から去ると…-。
ミカエラ「○○」
○○「ミカエラさん?」
彼は温かなその手で私の手を引く。
ミカエラ「きっと君のおかげだね……」
○○「そんな……私は何も」
彼は静かに首を横に振ると、私の手を自ら胸元で握りしめた。
ミカエラ「君を案内したいところがあるんだ、僕の感謝の気持ちの代わりに」
背負った純白の翼のような柔らかさで笑うと、彼は手を引いて、私を街の外へと連れ出した。
街を出て、森を横に見ながら歩き続けると、やがて……
○○「……ここは?」
雑木林を抜けた場所に、一面の花畑が広がっていた。
ミカエラ「ここは僕とごく一部の友達だけが知ってる秘密の場所。禁止区域が近いから誰も近寄らない」
○○「こんなに綺麗なのに……」
ミカエラ「うん、人が近づかないから、美しい花々が咲いてるんだ」
彼が柔らかに目を細めて小さくつぶやく。
ミカエラ「……あの日、僕達は、本当はここに来たかった……」
○○「ミカエラさん……?」
その瞬間、彼はそよ風のように自然に私の体を抱き上げた…-。
ミカエラ「ありがとう、○○。 僕は君のおかげで一つ壁を乗り越えることができた」
○○「ミカエラさん……」
私の鼻先で、ミカエラさんが心から笑みを見せる。
慈愛に満ちた笑みに、胸に温かなものが広がっていく……
ミカエラ「君は僕に勇気を与えるために、神様が遣わした天使だったのかな?」
甘い声音が、私の耳元をくすぐる。
ミカエラ「約束する……君がくれたこの一歩を、僕はしっかりと守ってみせるから。 君さえ良かったら……この先も僕の傍に一緒にいて欲しい」
○○「はい、ミカエラさん……」
しっかりと首を振ると、抱きしめている腕の力がぎゅっと強くなる。
ミカエラ「ありがとう、○○。僕の愛らしい天使……」
○○「あ……」
羽根が触れたような優しいキスが、私の頬に落とされる。
その柔らかなキスは、彼の優しさのように私の胸へ幸せを運ぶのだった…-。
おわり。