数日後…-。
満天の星の下で、私は議会のことを思い出していた。
(ミカエラさん……)
―――――
議員1『恐れながら……ミカエラ様はルシアン様のことで感情的になっているだけでは?』
ミカエラ『……!』
―――――
結局あの後、ミカエラさんが意見を強く主張することができないまま議会は解散となった。
議会から去るときの悔しそうなミカエラさんの顔が忘れられずに、私は彼の部屋へと足を向けたのだった。
部屋を訪れると、ミカエラさんは夜遅くだというのに快く迎え入れてくれた。
ミカエラ「どうぞ。また少し散らかってきてしまったけれど……」
○○「ありがとうございます」
雑然とした部屋の中を見れば、机の上に一枚の写真が置いてあった。
○○「これは……?」
(幼い頃のミカエラさんと、それにこの子は……)
一緒に写っているのは、ミカエラさんと瓜二つな黒い髪の少年……
仲睦まじい二人の男の子の背中には白い翼がたたまれている。
ミカエラ「あ……っ」
ミカエラさんは私の視線から隠すように写真を裏返してしまう。
ミカエラ「……今の、見ちゃったよね?」
○○「はい、もしかしてミカエラさんの小さな頃ですか?」
ミカエラ「うん……」
(ということは、もう一人はこの前聞いた、お兄さん……?)
ミカエラさんは失敗を悔いるような顔で、ため息をついた。
ミカエラ「双子の兄だよ。まだ翼が白かった頃の……」
○○「あ……」
―――――
ミカエラ『それが僕にできる、ルシアンへのせめてもの罪滅ぼしだから……』
―――――
いつか彼から聞いた言葉が脳内で繰り返される。
しばらくミカエラさんは口を閉じて窓の外を見ていたけれど、やがてゆっくりと口を開き始めた。
ミカエラ「まだ僕達も子どもだったから、無知だったんだ……。 幼い頃、共通の友人と禁止区域へ立ち入ってしまったことがあって。 遊びに夢中になっていた僕と友人は瘴気の存在に気づかずに……」
ミカエラさんは両手を握りしめて瞳を伏せる。
ミカエラ「ルシアンはそんな僕らの危険にいち早く気づいて、自らを犠牲にして救ってくれたんだ……。 だけどその時に兄は瘴気にやられて……以降、公の場には姿を現さなくなってしまった……」
○○「……そんなことがあったんですね……」
(だからミカエラさん、この前の議会でとっさに言い返せずに……)
ミカエラ「今夜はなんだか感傷的になって……駄目だな。 これじゃ、所詮身内のことだって、議会で揶揄されても仕方がないよね……」
徐々に小さくなる声に胸が絞めつけられる……
○○「そんなこと……ないです」
ミカエラ「……え?」
知らずうちに私は彼の手を包み込んでいた。
○○「私は街でミカエラさんがあの黒い翼の男の人にパンを渡しているところを見ました。 あの人心からミカエラさんに感謝していたはずです。 それにただ翼が黒くなっただけで、差別されなけらばならないなんて……。 ……事情も知らずこんなことを言ってはいけないかもしれませんが、私はおかしいと思います」
ミカエラ「……○○」
○○「どうか諦めないでください。ミカエラさんの思い描く未来はきっといつか来ます」
ミカエラ「差別のない、人々が不用意に危険にさらされることのない国が?」
○○「はい。ミカエラさんがいれば、きっと」
彼の淡いアメジスト色の視線を受け止める。
○○「……ありがとう、○○」
彼の顔に再び光と笑顔が戻る。
その瞳は強い決意に満ちて、夜の部屋で星のように瞬いたのだった…-。