翌日…―。
私は城の客間にある窓から、昨日と同じ色に染まる街並みを見て、ミカエラさんのことを思い出していた。
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ミカエラ「あの森の奥には禁止区域と呼ばれる恐ろしい場所があるんだ……決して、あの場所には近づいちゃだめだよ」
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穏やかな彼が見せた、憂いに満ちたあの表情が忘れられない。
その時…―。
??「○○様」
扉がノックされ、城の侍女さんが姿を見せる。
侍女「失礼いたします。ミカエラ王子が、お呼びでございます」
○○「ミカエラさんが?」
思い描いていた人からの呼び出しに、私の胸が小さく鳴った…―。
呼ばれるがまま、彼の部屋を訪れると…―。
(え……?)
彼の部屋は床のあちこちに本や書類が積み重ねられて、さながら物置のようだった。
(こ……これは)
私は部屋の散らかりように一瞬、目を疑ってしまう。
ミカエラ「っ……ごめん、びっくりさせたよね? 僕、執務中とか人の目があるときは頑張れるんだけど……自分の身の回りのことになると、どうも甘くて」
私を部屋に招き入れたミカエラさんは、恥ずかしそうに顔を赤くしている。
○○「意外でした。てっきり公私ともどもきっちりしてる方かと……」
ミカエラ「よく言われるんだ……」
気恥ずかしそうに、ミカエラさんはくしゃりと髪を掻いた。
○○「……」
ミカエラ「○○?」
○○「いえ、なんでもないです」
(ミカエラさんにも、自分に甘いところがあるんだ……)
完璧なイメージの彼の中にも人らしい綻びがあったことを知って、どこか親近感を感じてしまう自分がいる。
私はつい口元に笑みを浮かべて…―。
○○「ひとまず、一緒にお掃除をしましょうか?」
ミカエラ「えっ、手伝わせちゃっていいの?」
○○「もちろんですよ」
ミカエラ「ありがとう……!」
自然な笑みが彼の唇に浮かんで、胸がとくんと跳ねた。
○○「なんだか今日のミカエラさん、いつもと違いますね。 自然体というか……なんて言えばいいんでしょう?」
(これがミカエラさんの素の顔なのかな?)
ミカエラ「そうだよね、君にはプライベートを見せるのは初めてだった。 いつも気を張ってるせいか、執務の時以外はこうなんだよね。 ……変かな?」
○○「そんな……!むしろ素敵です」
ミカエラ「えっ……」
○○「あ……」
無意識に飛び出した言葉に口を押さえる。
(私、何を言って……)
急に恥ずかしくなり、彼を恐る恐る見れば……
ミカエラ「……」
○○「……」
ほんのりと顔を赤くした彼の瞳に、同じく赤い頬をした私の顔が映る。
やがて私達は何がおかしかったのか、小さな笑い声を上げ始めたのだった。
(なんだか、楽しい)
こうして、私達は徐々に打ち解けながら、部屋を片付け始めた。
私は雑然とした部屋から何冊かの本を拾い上げる。
○○「あ、この本――」
ミカエラ「禁止区域に関する書物……」
途端、ミカエラさんの顔が憂いを帯びてしまう。
(またこの表情……一体、禁止区域って何なんだろう)
ミカエラ「……今日君に話をしようと思ったのは、禁止区域に関することなんだ。 ○○には、この国のことをしっかりと知っておいてもらいたくて……」
私の手にしていた書物に手を伸ばしたミカエラさんは、自分を落ちつけるように、大きく深呼吸した。
窓の外は、もう間もなく夕日が沈み、夜を迎えようとしていた…―。