整然としたアルビトロの街で感じた、不穏な空気…―。
黒い翼を持つ男の人を忌み嫌うようなパン屋の店主の視線……辺りをよく見てみれば、道を行く人々が店主と同じ目を男の人に向けている。
(一体、何が……?)
不思議に思っていると、ミカエラさんはパン屋に入っていき、しばらくして小さな袋を持って外に出てきた。
ミカエラ「お腹が空いているのですね、どうぞこれで空腹を満たしてください」
黒い翼を持った男「あ、あぁ……ありがとうございます、ありがとうございます!」
男の人は涙を流しながら、パンの入った袋を抱えてその場を去って行く。
ミカエラ「……」
小さくなる背中を見送るミカエラさんの瞳が、苦しげに細められる。
○○「あの、今のは一体……?」
ミカエラ「……君には話しておくべきかな」
彼は瞳を伏せると、やがて浮かない声でこの国の現状を話し出した。
ミカエラ「アルビトロや天の国では、昔からあんなふうに黒い翼を持つ者が虐げられてるんだ……もとは同じ存在なのに、ただ翼が黒いという理由で、差別するなんて……」
(……そうだったんだ)
○○「心苦しい話ですね……」
ミカエラ「うん、でも僕はそんなこの国の現状を変えたくて……この審判の国の裁きを司る者として、天の国の王子と協力して――」
○○「ミカエラさん……」
彼の宝石のような淡い瞳に、強い意志が宿る。
(立派な人。それに、優しくて……だから街の人達からも尊敬されてるのかな?でも……)
非の打ちどころのない高潔な心に、少しだけ気後れしてしまう。
○○「……」
ミカエラ「どうしたの?○○」
気遣ってくれているのか、柔らかな微笑みが私に向けられた。
○○「……っ」
清廉な心を映し出したかのような透明な瞳に心奪われてしまい…―。
○○「あの……すみません、いろいろ考えてしまって……」
(ミカエラさんを、なんだか遠く感じる……)
ミカエラ「……ごめん。突然こんな話をして混乱させちゃったね。 君をもてなそうと思って招待したのに、この国の恥ずかしいところを見せてしまって……」
ミカエラさんは、気を取り直すように小さくため息を吐いた。
ミカエラ「……じゃあ、次の場所に案内するね」
○○「はい」
私が返事をすると、再びミカエラさんは手を差し出してエスコートをしてくれた。
その後、黒い翼の人達の話題は出さないまま……
アルビトロの主要な建物を案内してくれたのだった。
ミカエラさんが最後に街外れにある礼拝堂を紹介してくれた頃には、すっかり日が傾いていた。
街を囲む壁にある大門から、外の風景が見える。
その綺麗な風景に、暗い色を落としている森が目に入る。
○○「あの森は……?なんだか鬱蒼としてますね」
ミカエラ「……っ!」
アルビトロの外に広がる森を見た彼の目が、一瞬険しくなった。
○○「ミカエラさん?」
ミカエラ「あの森の奥には禁止区域と呼ばれる恐ろしい場所があるんだ……」
○○「禁止区域?」
ミカエラ「……うん。決して、あの場所には近づいちゃだめだよ」
(え……)
彼の纏う雰囲気が硬くなったことを感じ、そっと淡い瞳を見る。
(どうしたんだろう……)
ミカエラ「……」
それっきり、ミカエラさんは黙り込んでしまった。
背負った白い翼が、夕陽に照らされどこか物悲しい色に染まる。
気高く美しい翼が、その時ばかりは弱々しく見えた…―。