お仕置きが怖くて、私は目を開けることができずにいる。
ジョシュア「手を」
(叩かれる……)
ジョシュアさんに手を取られ、ぎゅっと体を固くした。
〇〇「……?」
指に触れた柔らかな感触にそっと目を開けると、ジョシュアさんが私の指に唇を落としている。
ジョシュア「……カップを落とした時、切ったんだね」
気がつくと私の指には、小さな切り傷ができていた。
〇〇「鞭は……?」
ジョシュア「何、鞭が欲しいの?」
〇〇「い、いえ……!」
ふっと微笑んで、ジョシュアさんは私の人差し指にハンカチを巻いてくれる。
ジョシュア「あれは冗談。さすがにそんなことしない」
(よ、よかった)
ジョシュア「言葉少なければ災い少なし。責任ある立場のものは、多くを語ってはいけない」
〇〇「……はい」
ジョシュア「微笑むのが仕事、くらいに思わないと。 嫌なことがあっても、こうして着飾って、優雅に笑う」
〇〇「……」
(それって……)
ジョシュア「……お返事は?」
〇〇「でも……。 それって、まるでお人形みたいじゃないですか……? ジョシュアさんのおっしゃることはわかります、けれど…―」
言い淀むと、ジョシュアさんは私を冷たく見下ろす。
ジョシュア「……さっき、なんて教えたっけ? 口答えするし……やっぱりお仕置きが必要だね」
すると突然、首の後ろをぐっと引き寄せられて…―。
〇〇「…ん……っ」
何が起きたかわからないままに、唇を奪われる。
やがてジョシュアさんの舌は私の唇を押し開けた……
〇〇「……っ」
抵抗しようとするも、手首を押さえられてしまい、それも叶わない。
(急にこんな……っ)
ジョシュア「君は、オレの言うことだけを聞いていればいい」
〇〇「やめて……!」
なんとか顔を背けると、ジョシュアさんは私に冷たい眼差しを注いだ。
〇〇「私……そんなに悪いことしたって思えません。 それに、ジョシュアさんの言うことだけを聞いていればいい、なんて……。 私は、ジョシュアさんのお人形なんですか?」
抑えていた気持ちが次々にこぼれ出して……
私はその場を走り去ってしまった。
…
ジョシュア「……オレは、どうしてこんなに腹を立てているんだろう。 〇〇が、他の男と楽しそうに話していたからか……?」
ジョシュアは独り言をつぶやき、ヒメの背中を追った。
…
暮れなずむ城の中を、部屋に向かって走る。
(ひどい……)
ひどいことをされたはずなのに、私の胸は痛いほどに高鳴っていた。
ジョシュア「待って」
ジョシュアさんが追いかけてきて、私の手首を掴む。
〇〇「離してください」
ジョシュア「嫌だ」
〇〇「ジョシュアさんなんて……っ」
すると…―。
そっと唇に手をあてられて、続く言葉を奪われる。
ジョシュア「……悪かったよ。 だから、その先は言わないで。 そのまま聞いて。 さっきのキス……オレ、嫉妬したんだ。 あいつとあんまり楽しそうに話してたから」
〇〇「……っ」
(それは、思い出話が嬉しかったから)
ジョシュア「それから、昨日君に選んだドレス……あれは、単なるオレの好み」
〇〇「え……?」
ジョシュア「さっき人形って言われた時、悔しいけどそうかって思ったよ。 オレ、〇〇のことオレの人形にしたかったのかも。 悪かった……」
ジョシュアさんが私を想ってくれていることが嬉しくて、微笑みがこぼれた。
ジョシュア「笑うなよ……」
照れたような顔をして、ジョシュアさんは顔を背けた。
〇〇「でも、微笑むのが仕事だって言われましたから」
ジョシュア「……言うね」
(なんだか……かわいい)
ジョシュア「とにかく、嫌な思いさせて悪かったよ」
(なんだか、すごく寂しそうな顔)
〇〇「あの、私……キスされたのは、嫌じゃなかったですよ。 お仕置きって言われたのが嫌だったんです」
気がついた時にはそう言っていて、ジョシュアさんは驚いたように私を見つめている。
ジョシュア「……じゃあ」
ジョシュアさんは、私の腰元を抱き寄せる。
ジョシュア「微笑むのが仕事って覚えてたご褒美」
元の冷たい口調に戻って、ジョシュアさんは優雅に微笑む。
〇〇「え……っ」
ジョシュア「目を閉じて」
〇〇「あの……っ」
ジョシュア「……お返事は?」
冷たい眼差しが、私を見下ろしている。
〇〇「はい……」
気がつくと私の唇は教えられた返事をしていて、
〇〇「……っ」
次の瞬間、優しく唇を奪われる。
ジョシュア「いい子だ……」
ジョシュアさんは、この上なく優しい微笑みを浮かべる。
ジョシュアさんが選んだドレスを着て、教えられた通りに微笑む。
(やっぱり私、ジョシュアさんのお人形みたいだ。でも……)
(彼に触れられて、嬉しいと思ってしまう)
髪を撫でられながら、そんなことを思う。
ジョシュア「いつまでいい子でいられるかな」
彼が私をふわりと抱き上げる。
〇〇「ジョシュアさん……?」
部屋に入ると、ジョシュアさんは私をベッドにふわりと降ろした。
見上げると、彼は私の唇に人差し指をあてる。
ジョシュア「静かに」
彼は、私のドレスの胸元のリボンを解く。
〇〇「……っ」
声を出すことも許されないまま、胸元の小さなボタンが外されていった。
ジョシュア「いい子だ。かわいいね」
妖しく笑うジョシュアさんを、少し怖いと思うのに…―。
(逆らえない……)
その気持ちは、胸の高鳴りに打ち消されていく。
彼の指がドレスの裾を持ち上げて、私の足先から太ももをなぞった。
〇〇「あ……っ」
思わずこぼれ出た甘い吐息を、彼は決して見逃してくれない。
ジョシュア「……たっぷり、お仕置きしないとね」
彼が私の胸に、そっと口づけを落とす。
夜が暮れ、私の目から涙がこぼれるまで……彼は、私を腕の中に閉じ込めていた…―。
おわり。