ハープが天上の光のような音楽を奏でている…-。
パーティーは華やかに続いていた。
ジョシュア「もうパーティーには慣れたかな?」
ジョシュアさんが、優しく微笑みながら私に声をかけてくれる。
ジョシュア「この国の料理は口に合う?」
○○「まだ緊張してしまっていて、なんだか胸がいっぱいで」
ジョシュア「さっきも言ったけど、そんなに緊張する必要はないよ」
やがて、骨付きの肉料理と一緒に、薄紅茶色の水が入った小さなボウルが運ばれてきた。
(あ、あのお花が浮かんでる)
ボウルの中に浮かんでいるのは、この国に来たときに紅茶の香りを漂わせていた、薄紫色の花だった。
その香りを嗅ごうと、そっと顔を近づけた時…-。
女の子「おひめさま、それは手をすすぐお水です」
リボンをつけた小さな女の子が、たしなめるように言った。
紳士「こらっ、何てことを……!」
お父様と思われる男性が、真っ青な顔をしている。
女の子「だっておとうさま、おひめさまが飲んでしまったら大変だもの」
女の子は口をすぼめて、言い訳をする。
(香りを嗅ごうと思っただけだけど……飲んでしまうと思われたのかな?)
女の子「ごめんなさい、おひめさま……あまりお食事になれていないのかとおもって。 お食事がはじまったときも、すこしこまってたみたいだから……」
(……!)
恥ずかしさに頬が染まっていくのがわかる。
○○「い、いいえ、そんな……教えてくれて、ありがとう」
紳士「娘が失礼を……! どうかお許しください」
ジョシュア「……」
(私がマナーをきちんとしていなかったから)
場内にざわめきが広がり、消えてしまいたくなる。
すると……
ジョシュア「少々、喉が乾いてしまいました」
ジョシュアさんはそう言って、おもむろにボウルの水を飲み干した。
○○「ジョシュアさん……!?」
ジョシュア「なるほど……はじめて飲みましたが、素敵な発見がありました。 我が国では、フィンガーボウルにも上質なアールグレイが使われているようですよ。 料理長の粋なはからいに、褒美を与えなければなりませんね」
ジョシュアさんが会場中に悪戯っぽく微笑みかける。
ざわめきは和やかな笑いに変わり、皆さんが我先にとフィンガーボウルの香りを嗅いだ。
ジョシュア「○○姫と、そちらの可愛らしいお嬢さんのおかげです。 お二人の無垢な感性に」
ジョシュアさんがグラスを優雅に持ち上げ、私達のために乾杯が行われる。
(ジョシュアさん……私に恥をかかせないように気を遣ってくださったんだ)
恥ずかしさといたたまれなさで、私の胸は重く沈んでいった。
(私……お姫様なんて呼んでもらってるけど、ふさわしいマナーを身につけてない)
(せっかく招いてくださってるのに、ジョシュアさんにも恥をかかせてしまっている)
視線を感じると、ジョシュアさんが薄緑色の瞳にじっと私を映し出していた。
○○「私……ちゃんとします」
ジョシュア「大丈夫。皆気にしてないから。ほら、笑って」
少し困ったように、柔らかい笑みを私に向けてくれる。
ジョシュアさんにそう言われ、私はなんとか笑顔を作った。
(自分が、情けない)
そうして食事は滞りなく続く。
やがてデザートと一緒に運ばれてきたワインは、ピーチティーのような甘い香りがした。
紳士「先ほどは娘が大変失礼致しました。こちらのデザートワインをお詫びの印に」
○○「いえ、お詫びなんてそんな……」
紳士「私の領地で作られたワインです。どうぞ召し上がってください」
(どうしよう。だいぶ酔いが回ってきてしまっているけど)
(お断りするのは、悪いし)
○○「では……いただきます」
笑顔を浮かべて、グラスに口をつける。
(甘くておいしい)
(でも……目がまわる)
ジョシュア「……大丈夫?」
(しっかり、しないと…-)
シャンデリアの輝きが遠ざかっていく。
ジョシュア「○○……っ!」
遠ざかる意識の中で……誰かに抱きとめられたような気がした…-。