ベルガント公国・凪の月…-。
色とりどりの花が咲き乱れ、傾き始めた太陽が、世界を暖かな色に染め上げている。
私は、ベルガント公国の建国祭に招かれて、この美しい国を訪れていた。
(このお花、紅茶の香りがする)
うっとりと瞳を閉じて、薄紫の小さな花の香りを嗅ぐ。
(すごく良い香り)
??「何をなさってるんですか?」
突然に耳元で声がして、私は驚き振り返る。
ジョシュア「ようこそ、○○様」
○○「ジョシュアさん!」
私を後ろから覗き込むようにしていたジョシュアさんと、至近距離で目があってしまう。
長いまつ毛に縁取られた、淡い緑色の瞳の下に、印象的な泣きぼくろ。
空気感のある、綺麗な茶色の髪からふわりといい香りが漂う。
(顔が、近い……!)
ジョシュアさんの端正な顔が突然に迫って、私の胸がかすかに音を立てた。
ジョシュア「こうしてまたお会いできて、本当に光栄です。 ご滞在中の身の回りのお世話は全て私にお任せください」
ジョシュアさんは、そう言うなり、私をふわりと横抱きに抱き上げた。
○○「え……っ」
ジョシュア「おみ足がお疲れにならないよう、城までお運びします」
○○「いえ、そんなことまでけっこうです!」
頬が急激に熱をもっていく。
そんな私に優しく微笑みかけ、ジョシュアさんは姿勢良く歩き始めた。
(は、恥ずかしい)
ジョシュア「この国でなさりたいことは? 姫。 お望みがあれば、全力で叶えてさしあげます」
(なんだか、こんなに気を遣われてしまうと緊張する)
(でも、せっかくのお気持ちだし……)
○○「……では、ジョシュアさんがいれた紅茶を飲んでみたいです」
ジョシュア「そんなことで良いのですか?」
○○「それから、できれば普通に接してください」
ジョシュア「え……?」
○○「そのほうが、嬉しいです」
ジョシュアさんは、驚いたように目を見開いて、それからクスリと笑みをこぼす。
ジョシュア「仰せのままに……姫」
風がふわりと私達の髪を撫でる。
ジョシュアさんの髪から香るのは、品の良い紅茶の香りだった…-。