第1話 紅茶の香り

ベルガント公国・凪の月…-。

色とりどりの花が咲き乱れ、傾き始めた太陽が、世界を暖かな色に染め上げている。

私は、ベルガント公国の建国祭に招かれて、この美しい国を訪れていた。

(このお花、紅茶の香りがする)

うっとりと瞳を閉じて、薄紫の小さな花の香りを嗅ぐ。

(すごく良い香り)

??「何をなさってるんですか?」

突然に耳元で声がして、私は驚き振り返る。

ジョシュア「ようこそ、○○様」

○○「ジョシュアさん!」

私を後ろから覗き込むようにしていたジョシュアさんと、至近距離で目があってしまう。

長いまつ毛に縁取られた、淡い緑色の瞳の下に、印象的な泣きぼくろ。

空気感のある、綺麗な茶色の髪からふわりといい香りが漂う。

(顔が、近い……!)

ジョシュアさんの端正な顔が突然に迫って、私の胸がかすかに音を立てた。

ジョシュア「こうしてまたお会いできて、本当に光栄です。 ご滞在中の身の回りのお世話は全て私にお任せください」

ジョシュアさんは、そう言うなり、私をふわりと横抱きに抱き上げた。

○○「え……っ」

ジョシュア「おみ足がお疲れにならないよう、城までお運びします」

○○「いえ、そんなことまでけっこうです!」

頬が急激に熱をもっていく。

そんな私に優しく微笑みかけ、ジョシュアさんは姿勢良く歩き始めた。

(は、恥ずかしい)

ジョシュア「この国でなさりたいことは? 姫。 お望みがあれば、全力で叶えてさしあげます」

(なんだか、こんなに気を遣われてしまうと緊張する)

(でも、せっかくのお気持ちだし……)

○○「……では、ジョシュアさんがいれた紅茶を飲んでみたいです」

ジョシュア「そんなことで良いのですか?」

○○「それから、できれば普通に接してください」

ジョシュア「え……?」

○○「そのほうが、嬉しいです」

ジョシュアさんは、驚いたように目を見開いて、それからクスリと笑みをこぼす。

ジョシュア「仰せのままに……姫」

風がふわりと私達の髪を撫でる。

ジョシュアさんの髪から香るのは、品の良い紅茶の香りだった…-。

 

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