○○と一緒に子猫を育てていた小屋が、火事で焼けてしまってから数日後…―。
サイ「あっ、そこで爪を研いじゃ駄目だよ。 あ……こらこら、喧嘩は…―」
僕の部屋では、数匹の猫達が大運動会を繰り広げていた。
そんな中、小屋から連れ帰った子猫は僕の足元で呑気に喉を鳴らしている。
(……まったく。君の友達はやんちゃ過ぎるよ)
子猫が外で友達を作ってはここに連れてきた結果……
僕の部屋は、いつの間にか猫まみれになってしまった。
(まあ、賑やかなのはいいことだけど……)
猫達にとって本や調度品が置かれた僕の部屋は格好の遊び場なのか、ここ数日の間、僕はずっと彼らの悪戯に悩まされていた。
(これじゃあ、ゆっくり外にも出られないな……)
ある程度の悪戯は大目に見つつも、猫達が怪我をしてしまわないよう目を光らせる。
(……まあ、でも……)
(外に出られないのは好都合なのかもしれないな)
(○○を危険な目に遭わせてしまった僕には)
(彼女に合わせる顔なんて、ないから……)
窓辺にもたれながら、ここ最近微妙に避けてしまっている彼女のことを思い返す。
(あの時……もっと早くに助けてあげられていたら)
(そもそも、僕が最初からこうして子猫を受け入れていたら……)
あの火事の中、煙に巻かれる彼女を助け起こした時の、泣き出しそうな顔が忘れられない。
(全部、僕のせいだ……)
僕はあの日から毎日、大切な彼女を危険から守ってあげられなかった自分を責め続けていた。
すると、その時…―。
子猫「にゃー」
サイ「ん……?」
沈む僕に向かって、足元にいる子猫が小さく鳴いた。
サイ「もしかして、慰めてくれてるの?」
僕は微笑みながら子猫を抱き上げる。
すると子猫は喉を鳴らしながら僕の胸にすり寄ってきた。
サイ「……温かいな」
なおも部屋を暴れまわる他の猫達を静かに見守りつつ、子猫の背中を撫でる。
サイ「……思えば君がいなかったら、僕は……。 こんなにも彼女に心惹かれることはなかったのかもしれないね。 そうしたら僕は、ここまで思い悩むこともなかったのかもしれない」
僕はこれまでも、彼女に限らず誰かが傷つく姿を見たらそれだけで落ち込んでいた。
けれども、今ほど心が沈んでしまったのは初めてのことで…―。
(やっぱりそれだけ、彼女は……)
(僕にとって特別な人……なんだろうな)
そんな相手を危険な目に遭わせてしまった自分を、僕はどうしても許すことができずにいる。
(……○○)
そうして心の中で彼女の名前をつぶやき、再び沈んでいると…―。
子猫「にゃー」
僕の胸に顔を埋めていた子猫が、腕の中からこちらを見上げてきた。
サイ「ああ、ごめん。また心配をかけちゃったみたいだね」
子猫の首の辺りをそっと撫でると、気持ちよさそうな表情を浮かべて喉を鳴らし始める。
(……しばらくの間は、自分を許すことなんてできないと思うけど)
子猫を撫でながら、今この場にはいない彼女へと想いを馳せる。
(もう二度と、君を危険な目に遭わせたりはしない)
(たとえ僕が君にとって特別な存在じゃなくて、結ばれない運命だったとしても)
(それでも絶対に、守り抜いてみせるから……)
そうして僕は腕の中に小さな温もりを感じながら、人知れずそっと、大切な彼女へと誓いを立てたのだった…―。
おわり