サイさんに体を支えられて、なんとか外に出ることができた。
○○「……サイさん、ごめんなさい」
サイ「○○、大丈夫?」
まだ苦しかったけれど、彼の心配そうな眼差しに、頷き返す。
○○「本当にありがとうございます。子猫は……」
サイ「無事だから、安心して」
子猫は、サイさんの腕の中で丸まっている。
(良かった……)
その姿を見ていると、緊張の糸が切れ、自然と頬が緩んだ。
少年達「お姉ちゃん、大丈夫!?」
バケツを持ち、全身びしょ濡れの子どもたちが私に駆け寄ってくる。
(皆、必死で消火をしてくれてたんだ)
○○「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
小屋の前には、消火活動をする為に多くの人が集まっていた。
サイ「あの子たちが、皆を集めてくれたんだ」
視線の先には、心配そうに私を見つめる少年たちの姿があった。
少年達「ごめんなさい……お姉ちゃん」
○○「大丈夫だよ」
泣き出しそうな少年達の頭を撫でて、微笑んだ。
火の勢いはだんだんと弱くなり、くすんだ煙が空へと登っていた。
○○「良かった……治まりそうですね」
サイ「うん、そうだね」
不意にサイさんの腕が目に止まる。
(赤くなってる……火傷!?)
○○「サイさん、その腕……私のせいで!」
サイさんは微笑んで、火傷を隠すように、上から手を重ねた
サイ「大丈夫だから」
(サイさん……)
少年達の活躍もあり、少しして火事は治まった。
子猫が私の足元に擦り寄ってくる。
(よかった)
サイ「この子も、城に連れて帰ろうか」
不意に、サイさんが言った。
○○「え!? 本当ですか? でも……国王様が、動物がお嫌いだって」
サイ「うーん……でも、帰るところがなくなっちゃったしなあ。 しばらくの間なら、バレないんじゃないかな」
サイさんは、困ったような笑顔を見せた。
サイ「さあ、皆で一緒に城に帰ろう」
(サイさん……)
サイさんが抱き上げると、子猫は嬉しそうに喉を鳴らした。
(皆で一緒に帰れるなんて、嬉しいな)
そのとき、子猫がサイさんの腕の中でわずかに動いて、彼が一瞬眉を潜める。
(……火傷が、痛いんだ!)
○○「サイさん、火傷、手当てしないと……!」
サイ「大丈夫」
○○「傷、見せてください」
子猫をサイさんの腕から取り上げて、火傷を今度はしっかり確認する。
○○「さっきより、また少し赤くなってる……」
サイ「本当に、大丈夫だから」
○○「すぐにお城へ帰って、手当てしましょう」
サイ「……こんなの、たいした傷じゃないよ」
サイさんは眉を潜め、火傷の痛みに耐えている。
(辛そうな顔……)
○○「ダメです、早く手当てしましょう」
火傷をしていない方のサイさんの手を引いて、歩き出した。
お城に到着すると、サイさんをベッドに座らせ、早速手当てを始める。
(サイさん、火が怖いはずなのに、火傷までして……)
氷で火傷を冷やしながら、彼の瞳を覗き込む。
○○「サイさん、助けてくれて本当にありがとうございました」
サイ「……」
○○「火が苦手なはずなのに……」
サイ「昔、少し火傷してからずっと怖かったんだけど……。 今回は、あまり怖いって感じなかったな」
○○「……?」
サイ「だって、○○は、もっと怖かったでしょ?」
(……え?)
サイ「早く助けてあげられなくてごめん……」
○○「ど……どうしてサイさんが謝るんですか?」
サイさんは視線を床へ向けて、その表情を隠してしまう。
(サイさん……?)
彼の沈んだ声色に、思わず手にしていた氷を落とすと、カシャリと音が立った…―。