少年「王子さま……お姉ちゃんが中に入って行っちゃった」
少年達は、堰を切ったように泣き出した。
サイ「……! ○○っ!!」
彼女の名前を叫びながら、僕は燃え盛る小屋へと駆け寄る。
その瞬間、恐ろしいほどの熱風が僕を襲った。
サイ「……っ!」
その圧倒的な熱量に、思わず一歩退いてしまう。
けれど…-。
(この程度でためらってなんかいられない)
(早く○○を助けないと……!)
そう思った次の瞬間、煙を吸い込まないように手で口を覆った僕は、今度こそためらうことなく小屋の中へと飛び込んだ…-。
サイ「く……」
熱風に顔をしかめながら、燃え盛る小屋の中を進む。
(○○、どこにいるんだ……!)
小屋はそう広くないものの、燃え盛る炎と煙に阻まれ、数歩先の様子をうかがうことも難しかった。
そんな中、懸命に彼女の姿を探し求めていると…-。
サイ「!!」
頭上から炎をまとった木材が崩れ落ち、僕の肩をかすめた。
サイ「……! あ、危なかっ…-。 ……っ!!」
崩れ落ちた木材へと気を取られた瞬間、少しだけ煙を吸い込んでしまい喉に焼けるような痛みが走る。
(早くしないと……)
(これだけの煙と熱の中じゃ、彼女も僕も、そう長くはもたない……!)
僕は再び口を覆い、小屋の奥へと進んでゆく。
するとその時…-。
○○「サイさん……助けて……」
(……!)
僕の耳に、○○のか細い声が届いた。
そうして、声のした方へ歩みを進めると…-。
サイ「○○!」
○○「サイさん……!」
彼女の姿を見つけた僕は、燃え盛る炎に構うことなく夢中で彼女へと手を差し伸べていた。
サイ「○○……!」
彼女が僕の手をぎゅっと握った瞬間、僕はたまらずその体を引き寄せる。
○○「サイさん……っ!」
すると○○は心細かったのか、僕の胸へすがるように飛び込んできた。
そんな彼女の体を、僕は彼女が胸に抱く子猫ごときつく抱きしめる。
サイ「馬鹿……! 君は本当に……」
(こんな危険な場所に飛び込んでいくなんて、本当に……)
(本当に馬鹿だ……)
(けど、そんな君だから僕は……)
彼女の無事に安堵感が込み上げた僕は、抱きしめる腕へとさらに力を込めた。
けれども…-。
(……っ!)
未だ弱まることのない炎から生じる熱風と煙が、抱き合う僕らに容赦なく襲いかかった。
(こうしてはいられないな。早く脱出しないと……)
再会の喜びも束の間、僕は彼女を安心させるように語りかける。
サイ「子猫は僕が抱くから、絶対に手を離さないでね」
そうして僕は、彼女の手をしっかりと掴みながら燃え盛る炎の中を歩き始めた。
…
……
○○の手を引いて歩き始めてから、少しの後……
サイ「○○……?」
意識が朦朧としているのか、○○がその場に倒れ込みそうになる。
(いけない。これ以上彼女を歩かせるわけには……)
(……そうだ。それなら……)
サイ「○○、この子を少しの間よろしくね」
僕はそう言って彼女に子猫を預け……
○○「……サイさん?」
不思議そうな顔をする○○の体をふわりと抱き上げた。
○○「サイさん、これじゃサイさんが疲れちゃうよ……」
サイ「いいから、ちゃんと僕につかまって。 それから、僕の胸に顔を埋めて。なるべく煙を吸わないように」
○○「はい……」
有無を言わさぬ僕の口ぶりに、彼女は素直に応じてくれる。
そうして、僕は…-。
(……絶対に、君は守り抜いてみせるよ)
(たとえ炎にこの身を焼かれようとも、絶対に……)
絶望的な状況の中、腕の中の○○に誓いを立て、衰えることのない炎と煙の中、小屋の外を目指し歩みを進めたのだった…-。
おわり。