さっきまでの喧騒が嘘だったように、星が穏やかに瞬いている。
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サイ『……この子、城で飼おうか』
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○○「サイさん、どうして突然子猫をお城に?」
城に戻りながら、私は彼の顔を見上げた。
サイ「……君達のせいかな」
○○「それは……どういう……?」
サイ「○○と、この子が危なっかしいことばかりするから」
○○「え……」
サイさんはくすりと笑って、私の瞳を真っ直ぐに見つめた。
サイ「今まで僕はね、あまり何かと深く関わりを持てなかったんだ。 何に対しても……一歩引いて見てるくらいが、距離感としてちょうど良くて」
○○「サイさん……」
サイ「けどそれって、実は面倒事を避けてただけなんだよね」
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執事『他人のことを気遣うあまり、どこか一線を引いてしまうようです』
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私は、ふと執事さんの言葉を思い出した。
サイ「でも、○○達はそうやって見ていたら、絶対危険な目にばかり合いそう」
○○「そ、それは…-」
サイさんが優しく私に微笑みかける。
(なんだろう、胸が苦しい)
子猫が、サイさんの腕の中で甘えるように喉を鳴らしている。
サイ「これからよろしくな」
子猫「にゃー」
子猫を撫でる彼を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
○○「子猫に、鈴を買いたいですね」
サイ「そうだね。せっかくだし、城にこの子を置いたら買いに行こうか」
○○「はい!」
…
……
私とサイさんは、城のすぐ側の市で子猫の鈴を選び始めた。
サイさんが真剣に鈴を選ぶ姿に、嬉しい気持ちがこみ上げる。
(……そういえば)
(サイさんって、火が苦手だったよね)
サイさんに助けられたときには微塵も感じさせなかったことを、今更ながらに思い出した。
○○「サイさん」
サイ「どうしたの?」
○○「さっきは、本当にありがとうございました。 それから……ごめんなさい」
サイ「もういいよ。無事で良かった」
○○「火、苦手なんですよね。なのに」
サイさんは、わずかに目を丸くして、微笑んだ。
○○「……?」
サイ「あの時は、怖くなかったんだ」
(えっ?)
サイさんは、言ったそばから少し顔を赤くして、視線を逸らす。
(サイさん?)
サイ「もう少し、歩かない?」
○○「……はい」
持っていた鈴を買い求めると、サイさんと並んで街を歩く。
ただ隣を歩いているだけなのに、胸がうるさいくらいに音を立てる。
サイ「○○」
○○「サイさん……?」
突然サイさんに手を取られ、街の外れへと連れてこられた。
○○「サ、サイさん……?」
サイさんは、黙ったまま、私の手をそっと彼の顔に近づける。
サイ「……」
○○「……」
サイ「○○」
サイさんはにっこりと微笑んで、私の手にそっと口づけた。
○○「……っ」
突然の出来事に、胸の鼓動がさらに大きくなっていく。
サイ「あの火事のとき、○○を失うことがとても怖いと思った。 僕は……今まで、人と深く関わることを避けてきた。 でも、今は……君の近くにいて……君を守りたい」
○○「サイさん……」
彼の手が、私の唇にわずかに触れる。
サイ「危ないことばかりする君を、放っておけないよ」
彼の顔が、ゆっくり私に近づいて…-。
○○「……っ」
風のように、私の唇を奪った。
恥じらいに両手で口を覆おうとすると、彼にその手を掴まれる。
サイ「もう一度……」
少し強引に、彼が私の唇にキスを落とす。
○○「っ……」
唇がゆっくりと離れ、サイさんの腕に閉じ込められる。
サイ「こんな気持ち、初めてだ……」
サイさんの鼓動と、私の鼓動が響き合う。
気づくと、抱きしめてくれている彼の背に、そっと腕を回していた。
(私、サイさんが…-)
胸に生まれた感情が、全身を甘く覆っていく。
サイ「○○……」
この上なく優しい声で名前を呼ばれるたびに、胸が音を立てる。
サイさんの胸の心地良い熱が、私の体に広がっていった…-。
おわり。