サイさんに手を引かれながら、炎の中を進んでいく。
(なんだか、頭がぼうっとする)
煙を吸い過ぎたのか、意識が朦朧としてきている。
(でも、しっかり歩かないと)
けれど意志とは反対に、その場に倒れ込みそうになってしまう。
サイ「○○……?」
私の様子を察したサイさんが、心配そうな声を上げる。
サイ「○○、この子を少しの間よろしくね」
サイさんはそう言って私に子猫を預けてきた。
○○「……サイさん?」
そして、サイさんが私の体を力強く抱き上げた。
○○「サイさん、これじゃサイさんが疲れちゃうよ……」
サイ「いいから、ちゃんと僕につかまって。 それから、僕の胸に顔を埋めて。なるべく煙を吸わないように」
○○「はい……」
少しして、私はサイさんに抱かれたまま、無事外に出ることができた。
○○「ありがとうございます……」
サイ「……無事でよかった」
○○「……サイさん」
たくさんの人達が小屋の前に集まり大騒ぎになっている。
街の人「サ、サイ王子! お怪我は……!」
サイ「僕のことはいい。それより早く、皆で水の用意を! ○○。少しここで休んでて」
サイさんは私を抱えて炎から出てきたばかりにも関わらず、人々を先導して消火の作業を始めた。
頼もしい彼の姿に、胸が音を立てた。
…
……
やがて無事に火が消えると、周りから大きな歓声があがる。
(よかった……)
サイ「○○、大丈夫?」
○○「はい……サイさん、本当にありがとうございました」
お礼を言うと……
サイ「どうしてあんな危ないことをしたんだ!?」
大きな声で怒鳴られてしまう。
○○「……中に、子猫が……」
初めてみるサイさんのその剣幕に、言葉を返すことで精いっぱいになる。
彼はそんな私を見て、大きくため息を吐いた。
サイ「そうだけど……君は本当に、無鉄砲過ぎるよ。 ○○にはもっと自分を大事にしてほしい」
(サイさん……?)
サイ「本当に、もう無茶はしないで……」
○○「……」
サイさんが真っ直ぐに私を見つめてくる。
いつもとは違う彼の表情に、胸の鼓動が早くなっていく。
(サイさん……)
その時、にゃーと、足元に子猫が頭を寄せてきた。
サイさんはしばらく甘える子猫を見つめていたが……
サイ「……この子、城で飼おうか」
やがて、決心したようにつぶやいた。
○○「え……いいんですか?」
サイ「うん」
○○「でも、国王様は? 確か動物がお嫌いだって……」
サイ「……城の空き部屋で、こっそり飼えば大丈夫じゃないかな。 もしバレたら、君も一緒に怒られてくれる?」
サイさんは、悪戯っぽい笑顔を私に向けた。
○○「はい……!」
サイ「皆で一緒に、城へ帰ろう」
サイさんのその言葉が嬉しくて、私は思わず目を細める。
足元の子猫をサイさんが優しく抱き上げ、皆で一緒に小屋を後にした…-。