翌日…-。
窓から入る風が心地いい。
(焼き過ぎてしまったかな)
小屋で面倒を見ることにした子猫の為に、私は魚を焼いていた。
サイ「な、何してるの!? ○○」
私の様子を見に来たサイさんが、動揺した様子でフライパンを凝視している。
○○「サイさん! 今、子猫にお魚を焼いてい…-」
サイ「危ない!」
○○「え?」
目を離した隙に、少し火力が強くなっていたようだった。
○○「あ、ごめんなさい、気づかなくって」
火力を弱めて彼を見ると、顔色が優れない。
(どうしたのかな?)
○○「顔色悪いみたいですけど……どうしたんですか?」
サイ「……」
サイさんの顔色が急に悪くなり、心配でじっと見つめてしまう。
すると、サイさんがゆっくりと話し始めた。
サイ「……実は、火が苦手」
(火が……?)
○○「そうなんですか……」
サイさんが腕をまくると、そこに……
○○「……!」
ひどい火傷の跡があった。
○○「これ……」
サイ「小さい頃に、ちょっとね。魚は調理師にでもまかせて。怪我したら大変だから」
サイさんが、心配そうな声で私に言った。
○○「えっと……もう焼けたから、大丈夫ですよ。 サイさんも来ますか? あの子、きっと喜びます」
焼き上がった魚を皿に移しながら、気分を変えるように、明るい声で言う。
サイ「……僕はいいよ」
彼は青い顔で、呼吸を整えている。
○○「そうですか……じゃあ、私行きますね」
それ以上無理には誘えず、私はひとり小屋へと向かった。
…
……
小屋に着いた頃には、すでに星が空を瞬き始めていた。
(遅くなっちゃった……)
魚を持っていつもの小屋に到着すると、その前で少年達が花火で遊んでいた。
少年1「お姉ちゃん! 一緒にやろうよ!」
○○「ちょっと待ってね。子猫にご飯をあげたら…-。 あ……危ないっ!!」
少年1「えっ?」
声を上げたけれど、遅かった。
私に気を取られた少年達が持っている花火が、小屋の隣に積まれていたわらに向けられていた。
乾いたわらに火がついてしまうと、瞬く間に小屋に引火してしまう。
○○「……!」
少年達は驚いて、立ち尽くしている。
○○「離れて!! 早く、水を……!」
少年達が、私の言葉に駆け出していく。
○○「子猫が……いない」
辺りを見回すけれど、どこにもいない。
少年「子猫なら、中に……」
一人残っていた少年が、震える声で教えてくれた。
(この火の中!?)
気がつくと、弾かれたように小屋の中へと駆け出してしまっていた…-。
…
城の窓を磨いていたメイドが、ふと顔を上げる。
メイド「あら……? 空がなんだか赤い……」
その声に、サイが窓に駆け寄った。
サイ「……小屋の方!?」
○○が、魚を持って小屋へ行った。
サイ「……っ!」
サイは、その場を飛び出した…-。
馬を走らせ、燃え盛る小屋に到着すると…-。
小屋に向かって、少年達がバケツで水をかけていた。
サイ「……っ」
火の勢いに、その場の空気が歪んでいる。
サイ「○○は……!?」
震える体を抑えながら、サイは少年達に尋ねた。
少年「王子さま……お姉ちゃんが中に入って行っちゃった」
少年達は、堰を切ったように泣きだした。
サイ「……!」
…
○○「どこにいるの!?」
既に、天井にまで火が燃え移り始めていた。
(早く、見つけないと……!)
恐怖ですくみそうになるのをぎゅっとこらえ、私は子猫を探した…-。