サイさんと子猫を助けてから、しばらく…-。
私は、子猫にご飯をあげようと、再び小屋に来ていた。
子猫「にゃぁ」
中へ入ると、私の足元に子猫が頭を擦り付けてくる。
(可愛い……)
頭を撫でると、喉をゴロゴロ鳴らして私にお腹を見せてきた。
(懐いてくれたのかな? 嬉しい)
サイ「○○」
小屋の入り口から、サイさんが顔を覗かせた。
サイさんもあの後、この小屋で一緒に猫の面倒を見てくれていた。
○○「サイさん! この子やっと私にも懐いてくれたみたいで!」
サイ「そっか」
○○「サイさん、この子猫に名前つけませんか?」
嬉しさに気持ちが弾んで、サイさんにそう提案したけれど……
サイ「……やめたほうがいいんじゃないかな。手放すときに辛くなるだけだよ」
冷静な声が返ってきてしまった。
(そういえば里親を探そうって、話したばかりだった)
(けど……なんだか、寂しいな)
サイさんは、傍に腰掛けて読書を始めてしまった。
(もしかして……)
○○「サイさん……もしかして、猫嫌いですか?」
サイ「どうして?」
サイさんは、不思議そうに私の顔を見返す。
サイ「猫は嫌いなわけではないし、迷惑でもないよ」
○○「本当に?」
サイ「うん」
○○「……良かった」
(でも……じゃあどうして、あまり子猫に関わろうとしないのかな)
そんなことを思いながら、再び子猫の頭を撫でようとしたとき…-。
ガタン!
突然大きな音がして、小屋の壁に立てかけてあった木材が私の上に倒れて来た。
○○「……!」
思わず子猫を庇おうと、身を伏せると…-。
サイ「……っ」
○○「サイさん!」
サイさんが、私達を守るように上におおいかぶさってきた。
○○「サイさん! サイさん、大丈夫ですか!?」
大きな木板が、サイさんの肩にぶつかって床へと滑り落ちる。
サイ「大丈夫だよ……びっくりしたね」
○○「あ……ありがとうございました。肩、見せてください」
サイ「大丈夫だよ。それより……」
サイさんの視線を追うと…-。
子猫が、すっかり怯えてサイさんの足元で震えていた。
○○「怖い目に遭わせちゃいましたね……」
サイさんがそっと優しく子猫の頭を撫でる。
サイ「よしよし」
(……優しい顔)
子猫をなだめる彼の瞳がとても優しくて、思わず見入ってしまう。
サイ「もう大丈夫だからね」
穏やかな声色に、私の胸が温かい気持ちでいっぱいになっていく。
(やっぱり……)
○○「やっぱりこの子猫、サイさんが飼えないでしょうか」
サイ「え?」
○○「サイさんに、とても懐いているみたいだし……。 サイさんも子猫に触れる時、とても優しい顔をしています」
サイ「……」
私の言葉に、サイさんは少し驚いたような顔をしていたけれど……
サイ「前も言ったように、城で飼うことはできない。それに。 僕より、もっと大切にしてくれる人がいると思う」
穏やかな口調のまま、きっぱりとそう言い放った。
○○「そうでしょうか……」
サイ「そうだよ。それこそ、○○みたいな、優しい人に飼われた方が幸せだよ」
サイさんはクスクスと笑いながら、猫を撫で続けている。
(こんな優しい顔してるのに)
サイ「早く、里親を探してあげないとね」
そう子猫に語りかけるサイさんの眼差しはやっぱりとても優しくて……
私は、子猫がサイさんと一緒にいられるにはどうしたらいいか、考えを巡らせていた…-。
翌日…-。
雲ひとつなく晴れた空の中、私はまた子猫の様子を見に、小屋へと来ていた。
(……あれ?)
中に入ると、壁際に座り込んでいるサイさんの姿があった。
○○「サイさん……?」
そっと声をかけると、彼はかすかにまぶたを震わせる。
(お昼寝してる……)
彼に寄り添うように、子猫が眠っていた。
子猫の傍には、飲みかけのミルクが入ったお皿が置かれている。
(サイさんが……持って来てくれたんだ)
窓から差し込む陽の光が、サイさんと子猫を静かに包んでいる。
(隣……座ってもいいかな)
穏やかな表情で眠るサイさんの隣にそっと座ってみると……
サイ「ん……」
(……!)
サイさんの頭が私の肩に乗せられ、彼の髪が頬をくすぐった。
(温かい……)
彼の体温を感じながら、いつしか私もその心地よさにまどろんでいった…-。