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サイ『綺麗だけど……僕はこうして見てるだけでいいよ』
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困ったようなサイさんの笑顔が頭から離れず、その夜はなかなか寝付けなかった。
その翌日…-。
サイさんが公務に出ている間、私は城の近くの小路を散歩していた。
(ちょっと、遠くまで来すぎちゃったかな)
城と街とを繋ぐ道沿いに、古びた小屋が建てられていた。
(あれ……?)
小屋の前を通りかかったとき、昨日の少年達の声が聞こえてきた。
(また、遊んでるのかな?)
近づいて、覗いてみると……
○○「……!」
少年達が、一匹の子猫を取り囲んで乱暴にその体を洗っている。
○○「やめて、子猫が嫌がってるよ!」
急いで駆け寄ると、少年達は私を見上げてきょとんとしている。
少年1「こいつきたないから、きれいにしてあげてるんだよ」
子猫を見ると、怯えて体を震わせていた。
サイ「○○? 何かあったの?」
声のした方を見ると、馬車からサイさんが顔をのぞかせていた。
○○「サイさん……!」
公務を終えたサイさんが、従者さんと城へ帰る途中だった。
サイ「先に行ってて。大丈夫だから」
従者さん達を先に城に帰して、サイさんがこちらへやってくる。
サイ「……何してるの?」
少年1「この猫、きたないから、ぼくたちの隠れ家を足あとだらけにするんだ!」
少年2「だから、洗ってあげてたの!」
サイさんは、怯える子猫をしばらく見つめていたが、やがて静かに少年達に向き直った。
サイ「ダメだよ。 子猫、怪我してる」
(あ……)
子猫の足を見ると、何かに噛まれたような傷がある。
少年達もそのことに初めて気づいたようだった。
サイ「この傷が痛いんだよ」
サイさんが、少年達に指し示すように、傷ついた子猫の足に視線を落とす。
少年「……いたそう」
サイ「野犬か何かに噛まれたのかな……怯えて、混乱したんだろうね。 それで君達の隠れ家を荒らしてしまったんじゃないかな」
少年達は、サイさんの足元で震える子猫をじっと見つめて……
少年「ごめんなさい」
サイさんに頭を下げた。
サイ「うん。でも、謝るなら、僕じゃなくて子猫に謝らないと」
言葉とは裏腹に、サイさんが表情をふっと和らげる。
(サイさん……)
その優しい表情に、胸が小さく音を立てた。
○○「と、とりあえず傷の手当てを」
サイ「そうだね」
濡れた子猫は、サイさんの足元にすり寄りながら、甘えるように喉を鳴らしていた。
○○「ふふっ、かわいいですね」
サイ「……うん」
(サイさん……?)
頷いてくれたものの、サイさんが子猫を見る瞳は、どこか冷めたものだった。
小屋に入り、傍にあるもので、できる限り子猫の手当てをした。
すっかりサイさんに懐いたようで、子猫はぴったりと彼の傍に寄り添っている。
○○「この子やっと落ち着きましたね。サイさんの傍だと落ち着くのかな」
サイ「え?」
○○「だってほら、サイさんの傍から離れようとしませんよ?」
サイ「……」
撫でてくれと言わんばかりに、サイさんに甘える子猫だったけれど、サイさんは決して子猫に触れようとはしなかった。
○○「サイさん……?」
サイ「……この子、どうしようか」
○○「うーん……そうだ! サイさん、お城でこの子を飼ってあげることはできませんか!?」
サイ「えっ……」
サイさんが、瞳を瞬かせる。
○○「す、すみません……勝手なこと言って」
サイ「いや……。城は駄目なんだ。父が、極度の動物嫌いで。 小さい頃に犬に噛まれたことがあるみたいで……それ以来、城は動物の立入り禁止」
○○「そ、そうなんですか……」
(それなら……)
○○「私達がしばらくここで面倒を見ながら、その間に里親を探しませんか?」
サイさんはしばらく子猫をじっと見つめた後…-。
サイ「放っておくこともできないからね……そうしようか」
私の提案を、承諾してくれた。
○○「ありがとうございます! よかったね~!」
私は子猫を抱き上げて、優しく撫でた。
サイ「……○○は」
○○「え……?」
サイ「○○は、お節介だって言われたことない?」
○○「そ、それはどういう意味でしょうか……」
突然の言葉に思わずサイさんの顔を覗き込むと……
サイ「ご、ごめん……」
彼は慌てたように視線を逸らした。
サイ「……いいと思うよ、君のそういうところ」
その言葉に、私の頬が熱を持っていく。
サイさんの右耳のピアスが、青い輝きを放って揺れていた……