第2話 子猫とサイ

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サイ『綺麗だけど……僕はこうして見てるだけでいいよ』

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困ったようなサイさんの笑顔が頭から離れず、その夜はなかなか寝付けなかった。

その翌日…-。

サイさんが公務に出ている間、私は城の近くの小路を散歩していた。

(ちょっと、遠くまで来すぎちゃったかな)

城と街とを繋ぐ道沿いに、古びた小屋が建てられていた。

(あれ……?)

小屋の前を通りかかったとき、昨日の少年達の声が聞こえてきた。

(また、遊んでるのかな?)

近づいて、覗いてみると……

○○「……!」

少年達が、一匹の子猫を取り囲んで乱暴にその体を洗っている。

○○「やめて、子猫が嫌がってるよ!」

急いで駆け寄ると、少年達は私を見上げてきょとんとしている。

少年1「こいつきたないから、きれいにしてあげてるんだよ」

子猫を見ると、怯えて体を震わせていた。

サイ「○○? 何かあったの?」

声のした方を見ると、馬車からサイさんが顔をのぞかせていた。

○○「サイさん……!」

公務を終えたサイさんが、従者さんと城へ帰る途中だった。

サイ「先に行ってて。大丈夫だから」

従者さん達を先に城に帰して、サイさんがこちらへやってくる。

サイ「……何してるの?」

少年1「この猫、きたないから、ぼくたちの隠れ家を足あとだらけにするんだ!」

少年2「だから、洗ってあげてたの!」

サイさんは、怯える子猫をしばらく見つめていたが、やがて静かに少年達に向き直った。

サイ「ダメだよ。 子猫、怪我してる」

(あ……)

子猫の足を見ると、何かに噛まれたような傷がある。

少年達もそのことに初めて気づいたようだった。

サイ「この傷が痛いんだよ」

サイさんが、少年達に指し示すように、傷ついた子猫の足に視線を落とす。

少年「……いたそう」

サイ「野犬か何かに噛まれたのかな……怯えて、混乱したんだろうね。 それで君達の隠れ家を荒らしてしまったんじゃないかな」

少年達は、サイさんの足元で震える子猫をじっと見つめて……

少年「ごめんなさい」

サイさんに頭を下げた。

サイ「うん。でも、謝るなら、僕じゃなくて子猫に謝らないと」

言葉とは裏腹に、サイさんが表情をふっと和らげる。

(サイさん……)

その優しい表情に、胸が小さく音を立てた。

○○「と、とりあえず傷の手当てを」

サイ「そうだね」

濡れた子猫は、サイさんの足元にすり寄りながら、甘えるように喉を鳴らしていた。

○○「ふふっ、かわいいですね」

サイ「……うん」

(サイさん……?)

頷いてくれたものの、サイさんが子猫を見る瞳は、どこか冷めたものだった。

小屋に入り、傍にあるもので、できる限り子猫の手当てをした。

すっかりサイさんに懐いたようで、子猫はぴったりと彼の傍に寄り添っている。

○○「この子やっと落ち着きましたね。サイさんの傍だと落ち着くのかな」

サイ「え?」

○○「だってほら、サイさんの傍から離れようとしませんよ?」

サイ「……」

撫でてくれと言わんばかりに、サイさんに甘える子猫だったけれど、サイさんは決して子猫に触れようとはしなかった。

○○「サイさん……?」

サイ「……この子、どうしようか」

○○「うーん……そうだ! サイさん、お城でこの子を飼ってあげることはできませんか!?」

サイ「えっ……」

サイさんが、瞳を瞬かせる。

○○「す、すみません……勝手なこと言って」

サイ「いや……。城は駄目なんだ。父が、極度の動物嫌いで。 小さい頃に犬に噛まれたことがあるみたいで……それ以来、城は動物の立入り禁止」

○○「そ、そうなんですか……」

(それなら……)

○○「私達がしばらくここで面倒を見ながら、その間に里親を探しませんか?」

サイさんはしばらく子猫をじっと見つめた後…-。

サイ「放っておくこともできないからね……そうしようか」

私の提案を、承諾してくれた。

○○「ありがとうございます! よかったね~!」

私は子猫を抱き上げて、優しく撫でた。

サイ「……○○は」

○○「え……?」

サイ「○○は、お節介だって言われたことない?」

○○「そ、それはどういう意味でしょうか……」

突然の言葉に思わずサイさんの顔を覗き込むと……

サイ「ご、ごめん……」

彼は慌てたように視線を逸らした。

サイ「……いいと思うよ、君のそういうところ」

その言葉に、私の頬が熱を持っていく。

サイさんの右耳のピアスが、青い輝きを放って揺れていた……

 

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