夜空に浮かぶ月を眺めながら、私はアルマリの言葉を思い出していた。
(あの日以来……)
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アルマリ「君といると、すごく胸が苦しくなって……あの力が消えたのも、そう感じるようになってからなんだ……」
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私はアルマリに避けられてしまっている気がした。
(このままここにいると、アルマリを困らせてしまうよね……)
(明日、ここを出よう)
夜空に浮かぶ月は、分厚い雲に隠れてしまった。
それはまるで、私の心を表しているかのように思えた…―。
翌日…―。
城の人達にお世話になったお礼を言い、アルマリには会うことなく城を出た。
街に着いて、賑わう露店に目をやると…―。
(あの宝石……)
きらきらと輝く、蒼色の宝石を見つける。
その、清く蒼い輝きは、私にアルマリのことを思い出させた。
(最初は距離感が近くて驚いたけど……)
○○「……」
アルマリとの思い出が、次々と蘇ってくる。
(さびしいな……)
(やっぱり、アルマリに挨拶をしてから帰ろう……)
露店の宝石を手に取り、一つ買おうとしたとき……
アルマリ「○○……!」
声のする方に振り返ると、肩で息をしているアルマリの姿があった。
○○「アルマリ……? どうしたの、ひとりでこんな所で……!」
アルマリ「ごめん……行かないで。 僕は……」
アルマリは言葉を詰まらせると、うつむいてしまった。
(……どうしたのかな?)
彼はしばらくすると顔を上げ、やがてためらいながらも唇を開く。
アルマリ「なんで君といると胸が苦しくなったのか、わかったんだ。 ○○のことが……」
(アルマリ……)
それまで逸らしていた瞳に、私の姿がしっかりと映し出されていた。
彼の蒼い瞳に真っ直ぐ見つめられ、身動きがとれなくなってしまう。
アルマリ「○○のことが、好きなんだ」
その瞬間…―。
○○「……!」
アルマリの胸にある宝石と、露店に並んでいる宝石が一斉に輝き始めた。
(どうして……!?)
(でも、なんて綺麗……)
アルマリ「あ……」
しばらくその輝きに見とれていると、アルマリが口を開いた。
アルマリ「そうか……」
○○「アルマリ……?」
アルマリが、何かを悟ったかのような顔つきになる。
アルマリ「この宝石に込められている意味……知ってる?」
○○「ううん」
アルマリ「この宝石にはね、”勇敢”って意味が込められてるんだ」
少し気恥ずかしそうに、彼が笑う。
アルマリ「僕は……トルマリからも離れられなくて。 ○○への気持ちにも、気づくことができなくて。 一緒にいたいと思うのに、遠ざけてしまうような臆病者だから……。 だから……きっと、宝石が光らなかったのかもしれないね……」
アルマリは小さくため息を吐くと、ふっと目を伏せた。
アルマリ「トルマリがいたら、怒られちゃうね……”しっかりしなさいよ”って」
○○「でも、今はこんなに光が溢れてる……」
彼の胸元の宝石はずっと、優しい光を放っている…―。
○○「アルマリが、勇気を出したから……」
アルマリ「○○……」
アルマリは、私の頬にそっと触れて優しく撫でた。
アルマリ「黙って出て行かないで……僕と一緒にいて欲しいんだ」
○○「……うん」
アルマリ「僕、○○にとって、勇敢な男でいられたらいいな……」
アルマリは恥ずかしそうにそう言うと、私の手をぎゅっと握りしめた。
アルマリ「君が……好きだよ」
蒼の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。
(アルマリ……)
○○「ありがとう……」
(すごく、嬉しい……)
胸に、愛おしい気持ちがあふれてきて…―。
○○「……アルマリ」
アルマリの頬に、キスを落とした。
アルマリ「○○……!」
○○「私……! 何を……!」
集まった聴衆が私達をはやしたて、頬が急速に熱を持っていく。
アルマリは一瞬驚いたような顔をしたけれど……
アルマリ「ありがとう」
私の髪を撫でて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
(アルマリ……)
ひときわ大きくなる歓声に、二人で頬を染めるけれど、アルマリは私を離そうとしなかった。
高く登っていた陽が、いつのまにか沈みかかっている。
それでも、彼の胸に光る宝石が、私を優しく照らしてくれた…―。
おわり。