トルマリさんの話題になり、アルマリの表情に暗い影が落とされる。
(アルマリ……どうしたのかな?)
不意に曇った表情が気にかかり、私はアルマリの方に顔を傾ける。
すると…-。
○○「……っ!」
すぐ近くにいたアルマリの顔に、頭をぶつけてしまう。
(痛い……)
アルマリ「……大丈夫?」
○○「ご、ごめん……」
アルマリ「ううん……僕は大丈夫だよ」
アルマリ「トルマリともね、こうして一緒に寝てると頭をぶつけたりするんだ」
○○「トルマリさんとも……?」
アルマリ「僕がベッドで寝てると、気づいたら隣で寝てることがあって」
(そっか……距離が近いなって思ってたけど)
(アルマリのこの距離感は、トルマリさんとの距離感なんだ……)
アルマリと私の顔の距離は、手のひらの大きさより近い。
(私は……この距離はやっぱり恥ずかしい)
私が少しずつ距離を取ろうとすると、アルマリはじっと私の目を見つめてきた。
アルマリ「……」
(う……寂しそうな、顔)
アルマリ「僕、何かしちゃったかな?」
○○「そ……そうじゃないんだけど」
アルマリ「○○は、僕が近づくとすごく緊張するよね」
○○「それは、アルマリ、すごく近いから……ドキドキしちゃうよ」
アルマリ「僕にとっては普通なんだけど……。 そっか、僕はトルマリ以外の人と、あまりこうして過ごさないからか……。 普通はこんなに近くないんだね……ごめん」
アルマリはまつ毛を伏せて、頬を赤くしていた。
(あ……気にしちゃったのかな?)
○○「ト、トルマリさん、早く帰ってくるといいね」
話題を変えようと、口を開くけれど……
アルマリ「うん……」
トルマリさんの話になると、やっぱりアルマリは言葉を詰まらせる。
(喧嘩でも……しているのかな?)
アルマリ「……トルマリは、僕に構い過ぎるんだ。 たった二人の兄弟だし、僕がこんなだから心配するのもわかる。 でも……」
アルマリは、トルマリさんへの思いをゆっくりと話し始めた。
アルマリ「僕がどこへ行く時も、何をする時も。いつもトルマリが口を出してくる。 それが最近ちょっと……鬱陶しく感じるときがあって。 この国の王子として、しっかりしないといけないのに。 このままだと、いつまでたっても公務も一人じゃできない王子だって、周りも不安にさせてしまう。 だからトルマリから離れたい……でも、そんなこと言えない。トルマリが傷ついちゃうから」
(アルマリ……悩んでたんだ……)
○○「トルマリさんが帰ってきたら、言ってみよう? アルマリのことが大事な
トルマリさんが、わかってくれないはずがないよ」
(兄弟って……きっとそうなんじゃないかな)
私がそう言うと、アルマリは目を細めて微笑んだ。
アルマリ「○○、ありがとう。 僕、式典頑張るね……トルマリがいなくても大丈夫なこと、証明しなきゃ」
○○「うん、頑張って」
私はアルマリの手を取って励ます。
すると、アルマリは私にぎゅっと抱きついてきた。
○○「……っ」
(ドキドキしちゃう…でも、これがアルマリの距離感なんだよね……)
しかし、次の瞬間…-。
○○「え……!」
アルマリの手が、私の胸元に触れた。
○○「……っ」
心臓が、飛び出しそうなほどに音を立てている。
けれども、アルマリは私以上に驚いた様子で…-。
アルマリ「……!」
直ぐに手を離すと、目を丸くしながら、黙り込んでしまった。
(どうしたのかな……?)
アルマリ「トルマリと違う……」
自分の手のひらを見つめ、彼がつぶやく。
○○「そ……それはそうだよ」
(だって、トルマリさんは男の人で……)
アルマリ「…ごめん……っ」
初めてその事実に気がついたように、アルマリが頬を染めた。
爽やかな風に、花たちが揺れる。
彼の瞳に映る私の姿も、微かに揺らいで見えた…-。