私とアポロは、ひとまず身を隠すためではあったけれど…
街の人の助けを得て、領の離れで生活を始めた。
(ここへ来てからのアポロ、以前とは全然違う顔をみせてくれるようになったな)
子ども「あーっ、アポロ様っ、お野菜のお水は、もっとやさしくしてあげてください!」
アポロ「優しくだと?そんなものはわからん」
街の人々と暮らし、生活に触れる中で、アポロの表情は豊かになった。
今も、眉間に皺を寄せて、教えてくれる子どもをじっと見ている。
アポロ「おい、子ども。優しくというのを教えろ」
子ども「うーんとね、元気にそだってね、はなしかけるのが、やさしいかな! じゃあね!アポロ様、あとはお願いします!!」
アポロ「お、おいっ!」
その光景に、思わず笑みがこぼれる。
そんな私を見たアポロが、不機嫌そうに顔を歪めた。
アポロ「…見ていたのか」
○○「はい。とても微笑ましくて」
アポロ「不思議だ…」
○○「え?」
アポロ「不思議だと言ったのだ。街の人間は、俺の知らぬ多くのことを知っている。 作物を育て、皆で協力し…自ら考え、行動している」
〇〇「…アポロ」
アポロ「俺は、己が王としてふさわしく在り続けることだけを考えていた。 王が絶対的な力を持って導いてこそ、民も幸せなのだと思っていた。 だが…どうやら、違ったようだ」
○○「アポロ…」
過去を振り返り、こぶしをきつく握りしめるアポロに…そっと寄り添った時…
側近「アポロ様…」
街へひそむ間にも連絡を取り続けていたアポロの側近が、姿を現した。
アポロ「…どうした」
側近「そろそろ皆、限界かと思います…。 アポロ様の代わりに領主となられたお兄様が、悪政の限りを」
アポロ「悪化しているのか」
側近「はい…圧政と暴君は激しく、逃げ出そうとする者は見せしめに殺されている始末です…」
○○「なんてひどい…」
側近「そろそろ、なんらかのご決断を」
アポロの瞳に、決意の強い光が宿る。
それはここ最近、時折見せていた、強く美しい輝きだった…
アポロ「王が王たるために国があるのではない。国とは…民なのだ」
側近「アポロ様…!」
アポロ「民のために戦う。そうすべき時だ」
アポロの、揺らぐことのない強く気高い孤高の眼差しが…
民を守ろうとする強さをはらみ、その力を増す。
口元に湛えた笑みとその横顔は、美しく堂々としたものだった…ー。