オレがルシアンに呼び出されてから、数日後の夜…―。
(ルシアン、なんであんなこと……)
アディエル「あー、くそっ! わけわかんねぇよ!」
ルシアンから、禁止区域にいた子どものことで叱られ、お前の行為が重いとまで言われてしまったオレは、ここ数日の間ずっと部屋でふさぎ込んでいた。
すると、その時……
(……誰だ? こんな時に)
突然響いたノックの音に、オレはベッドから起き上がる。
部屋の扉を開けると、そこにはどこか気まずそうな顔をした○○の姿があった。
(○○……)
せっかく彼女が部屋に来てくれたのに、上手く言葉が出てこない。
けれど……
○○「……何があったんですか?」
○○はオレの顔を見て何かを察したのか、優しく声をかけてくれる。
その瞬間、胸の中で渦巻いていた不安や悲しみが爆発して…―。
アディエル「……○○!」
気づけばオレは、すがるように彼女を抱きしめていた。
…
……
○○が部屋に来てくれてから、しばらくの後…―。
―――――
○○『……ルシアンさんが怒っているのは、アディエルくんのためだと思います。 本当はルシアンさんは、最初からアディエルくんを許しているんです。許していないのは……。 アディエルくん自身だけに思えます』
―――――
○○の口から出た意外な言葉の数々は、最初こそ納得がいかなかったものの……
重ねられた彼女の手から伝わる温もりのように、少しずつオレの心に染み渡った。
(オレが、ずっと気にしてたから……)
(ルシアンはオレのこと、嫌になったわけじゃなかったんだな)
(それなのに、オレ……)
アディエル「……ははは。まるで親離れしてないひよっこだな」
自分の子どもじみた思い込みに苦笑しながら、○○へと手を伸ばす。
(……なんかもう、どっと疲れた)
○○「アディエルくん……?」
オレは不思議そうにする彼女の肩に腕をまわすと、そのまま一緒にベッドへと倒れ込んだ。
○○「……っ」
アディエル「悪ぃ。しばらくこのままでいさせてくれ」
(本当に、何やってんだろうな)
(ルシアンのこと、一番わかってるみたいな顔しといて、結局あいつを苦しめてたなんて)
(その上、○○にまで心配かけて……)
○○「大丈夫……ですか?」
ベッドに身を預けながら、激しい自己嫌悪に襲われていると、○○が心配そうに声をかけてくる。
アディエル「ああ……お前のおかげで、ルシアンの言いたいことが、ようやくわかったぜ。 ありがとな。○○。オレ、お前がいれば親離れできる気がする。 だから……もうちょっとオレと一緒にいてくれるか?」
オレが絞り出すようにそう言うと、彼女は少しの間、何かを考えるような素振りを見せたけど……
○○「はい」
しっかりと返事をして、そっとオレの背に手を回してくれる。
その優しい温もりに、心を柔らかな羽根でくすぐられるような感覚を覚えた。
(……ルシアンとのことは、失敗しちまったけど)
(お前のことは、絶対に苦しめないって約束するよ)
(そしていつか、親離れできた後はお前のために……)
(……いや。オレとお前のために生きられればって思う)
オレは、新たなる決意を胸に秘めながら、彼女を抱きしめる腕に、ぎゅっと力を込めたのだった…―。
おわり。