漆黒の空に、月が不安げに淡い光を宿している…ー。
城を追われた私達は、街へと下りていた。
けれど、その道すがら…
(アポロ…様子がおかしい?)
アポロは呼吸を荒くして、肩で大きく息をしていた。
アポロ「…っ…くそっ、頭が回らん…!!」
○○「アポロ…!」
よろけそうになるアポロの体を、慌てて支える。
私の手をはね除けようとしたアポロの手が、力なくうなだれる。
○○「少し休みましょう。体調が悪いようです」
アポロ「俺は…王たる男にならねばならんのだ…」
○○「…はい」
うわごとに近くなりかけたアポロの言葉に、ただ深く頷いた。
アポロ「城以外に…王が帰るところなどない…なぜだ…。 なぜ、我が城が…奪われねば、ならんのだ…!」
○○「アポロ…落ち着いて」
熱くなる一方の彼の体を落ち着かせようと背中に手を添えた、その時…ー。
街の人1「アポロ…様?」
街の人2「ああっ、アポロ様だよ!」
やはり、アポロの姿はとても目立つようで、街の人々が集まり始めてしまった。
街の人3「お加減が悪いのかしら。どうなさったんです!?」
一度集まれば、夜とはいえすぐに大勢の人々が集まり始める。
○○「あの、これは…」
どう説明すればいいか、言葉を迷う。
街の人達は、互いに顔を見合わせ、何かを思案していたけど…ー。
街の人4「アポロ様!どうかご恩を返させてください」
街の人3「城での話は聞き及んでおります。私達のところにまで、アポロ王子を討てと伝達が…」
アポロ「なんだと…」
街の人4「ですが、私達はあなたの力になりたい…!」
街の人2「フレアルージュのこの領は、アポロ様のお力で今まで守られていたのですから!」
アポロの様子に、皆が口々に手を差し伸べる言葉を言い始める。
(…アポロのことを、皆わかってくれてるんだ)
嬉しさに、胸が熱くなる。
けれど…ー。
アポロ「ええい、うるさいっ!」
アポロの、振り絞ったような怒号が夜の街に響いた。
○○「アポロ!どうか落ち着いて…」
アポロ「貴様まで…俺に、哀れみの目を向けるつもりか…!」
○○「いいえ。お願い、聞いてください。 アポロならきっと、この人達の気持ちがわかるはずです」
アポロ「…わかるものか」
○○「アポロの助けになりたいんです。自分達を守ってくれる、大切な人だから」
アポロ「…」
○○「私だって…」
私の顔を見たアポロが、はっとしたように表情を変える。
アポロ「○○…」
そして、何かを諦めたような苦笑いをふっとこぼした。
アポロ「好いた女を泣かせるなど…俺は、どこまで生き恥を晒すというのか」
瞳に溜まっていた涙を、アポロの指先がこの上なく優しくぬぐってくれる。
(好いた…?)
きょとんとする私に、アポロのまっすぐな眼差しが向けられる。
アポロ「なんだその顔は。○○は、俺の妃だろう。好いているに決まっている」
さも当たり前のように告げられた言葉は、私にとっては当たり前じゃなくて…
○○「ま…まだ、妃の話をしてるんですね」
アポロ「好いてると言ったのは、初めてだがな」
○○「…!」
小さく笑って、アポロが私の髪を撫でる。
(嬉しい…)
月明かりが、アポロの横顔を優しく照らす。
彼の微笑みが、私の胸に甘やかな感情を生んだのだった…ー。