オレがルシアンに呼び出された次の日…―。
○○を誘って、甘い香りが漂う花畑にやって来たオレは、隣に座る彼女に、ルシアンから禁止区域にいた子どものことで叱られてしまったことを打ち明けた。
すると……
○○「……アディエルくんを見てると、時々とても辛くなります。 ルシアンさんも……私も、アディエルくんが好きだからこそ余計に」
アディエル「へ?」
(今、オレのこと好きって言った……?)
彼女の言葉に鼓動が大きく跳ね、ルシアンに嫌われてるんじゃないかという黒い感情に支配されていた胸の中が、途端に騒がしくなる。
○○「っ……! あ、あの、いい人だと思うっていう意味です。律儀なところも、友達思いなところも素敵です」
(あ、ああ、そういう意味か。そりゃそうだよな。 けど、オレを見てると辛いって……)
アディエル「……」
オレはさっき言われた言葉を思い返しながら、真っ直ぐに彼女を見つめる。
アディエル「本当に無理してるつもりはないんだ。けど……オレを見ていると辛いのか?」
○○「……はい。いつか、きっとアディエルくんはルシアンさんのために自分を犠牲にしてしまうって」
(! それって……)
○○「好きな人が自分のために不幸になる……それは、辛いことじゃないでしょうか」
(やっぱりそうだ。ルシアンにも、言われたこと……)
衝撃を受けたオレが、つい黙り込んでしまうと、彼女はオレの腕に優しく触れた。
その温もりに促されるように、オレは静かに口を開く。
アディエル「ルシアンにも……似たようなこと何度か言われた。でも耳に入れてなかった。 ルシアンの気持ちを……オレが一番近くにいたつもりだったのに、わかってなかった」
(何やってんだよ、オレ)
(勝手な思い込みで、○○のことまで不安にさせて……)
オレは自責の念に押し潰されそうになる。
だけど……
○○「大丈夫です……きっと、これからは」
彼女はオレの気持ちを落ち着かせるように、優しく腕を撫でてくれた。
その温もりは、オレの後悔や不安を全て消し去ってくれるみたいで……
(○○……)
(オレ、お前がいてくれて本当に良かった)
(だから……だから今、この気持ちを伝えるよ)
オレは決意を固めて立ち上がる。
だけど○○の顔を見た途端、恥ずかしさが込み上げてきて……
(だ、ダメだ! やっぱり面と向かっては照れる!)
(何でだよ! ここまできて、オレ……!)
(くそっ、だったら……)
情けなさを覚えながら、○○の背後に回る。
そして……
アディエル「……ごめん、こうさせて」
彼女の後ろに座った後、背中同士をぴったりとくっつけた。
アディエル「まともに顔見ると照れるからな」
オレは短くそう言った後、胸の鼓動を抑え込むように息を吸い込み、改めて覚悟を決めた後、胸の想いを言葉に乗せる。
アディエル「ありがとうな……なんか、気持ちがすうっと楽になった。 オレ、○○のことが、結構気に入ったみたいだ」
○○「……っ!」
アディエル「こんな風にオレの気持ちを受け入れてくれて、変えてくれたのはお前が初めてで……。 ○○はオレにとっては特別な女……だ!」
(い、言った。言っちまった……!)
想いを伝えたオレは、一気に脱力する。
そうして、再び深く息を吸い込むと……
アディエル「お前のこと、ルシアンに紹介したい。 ……笑ってくれる気がするんだ」
相変わらず背を向けたまま、空に向かって放たれた言葉だったけど……
○○「はい……」
○○は小さく、でもはっきりと返事をくれる。
その瞬間、緊張で硬くなっていたオレの顔は、大きく緩んでしまい……
アディエル「そ、そっか。やっぱりこの姿勢にして良かったな。今のオレの顔、みっともなくて見せられねぇぜ」
(……って、コラ! 見ようとすんじゃねぇ!)
○○「……あ」
体を動かそうとする○○の手を握りしめると、彼女の口から小さな声が漏れた。
アディエル「だから、ダメだっつっただろ?」
○○「……はい」
触れ合う背中と手に、心地良い熱を感じる。
そんなオレ達のことを見守って微笑むように、花々が風に揺れていた…-。
おわり。