アディエルくんに審判の国を案内してもらっていると、いつしか街はずれの、どこか薄暗い森近くまで来てしまっていた。
(暗い雰囲気……なんだか怖い)
アディエル「いけね……調子に乗ってこんなとこまで来ちまった。 悪ぃ、○○。ここらは…-」
その時…-。
アディエル「……っ!!」
アディエルくんの表情が、一気に青ざめる。
(え……)
彼の視線を追うと、近くの有刺鉄線が張り巡らされている場所に、子どもがふざけて入ろうとしていた。
アディエル「あっ、あぶねえ!」
身軽な子どもは、ひょいっと鉄線を超えて行こうとしていて……
アディエル「お前っ、何してんだ!?」
さっき横にいたアディエルくんが、素早い動きで、もう子どもを背後から抱きかかえている。
子ども「なにすんだよぅ!」
アディエル「お前こそ何してんだ! ここは禁止区域だろうが!」
バタバタと暴れる子どもを、しっかりと逃げられないように抱えたまま、アディエルくんは血相を変えて大きな声を出した。
子ども「うっ……ひっくっ、だって……っ」
アディエル「だってじゃねぇ! ここは危ねえって知ってるだろ!?」
子ども「うわーん、怖いよー!」
アディエル「まっ、えっ、な、泣くな! 入ったら大変なことになるから言ってんだぞ」
アディエルくんが、子どもを抱えたまま困惑した顔になる。
○○「あの、アディエルくん、きっとびっくりしたんじゃないかな。 突然、怒られたみたいに思って……」
アディエル「そ、そりゃ怒るに決まってんだろ!」
子ども「うっ、うわあーーん!」
アディエル「う……」
困ったようにアディエルくんは顔をしかめて、私に助けを求めるようにこちらを見る。
○○「大丈夫だよ。アディエルくんは、心配してただけだから」
子ども「うっ、ぐすっ、本当?」
○○「うん、本当。ね? アディエルくん」
アディエル「あ、ああ……そうに決まってんだろ」
すると、やがて子どもは落ち着いたようで……
○○「もう入ってはいけないところには行かないよね」
子ども「うん」
それを見て、アディエルくんは子どもを地面に下ろした。
すぐに子どもは、逃げるうさぎのように街に向かって走っていく。
アディエル「反省しろよ、そんでぜーーーったい、ここにはもう近づくなよ!」
念押しのように、アディエルくんは子どもに声をかけた。
けれど子どもは、振り返りもせず行ってしまった。
アディエル「せめて何か言えよなー……」
○○「子どもだから」
アディエル「子どもでも恩義は大事だぜ。ルシアンなんて、子どもの頃から礼儀正しかったからな」
(またルシアンさんの話だ)
アディエル「でも……随分、素っ気ない奴」
すねた口調で言うのが何だかかわいくて、私は微笑んだ。
(でも……)
アディエルくんの、さきほどの青ざめた表情を思い出す。
(何か……あったのかな)
少し小首を傾げながらも、なんだか聞いてはいけない気がして、私はただじっと彼を見つめることしかできなかった…-。