第2話 禁止区域

アディエルくんに審判の国を案内してもらっていると、いつしか街はずれの、どこか薄暗い森近くまで来てしまっていた。

(暗い雰囲気……なんだか怖い)

アディエル「いけね……調子に乗ってこんなとこまで来ちまった。 悪ぃ、○○。ここらは…-」

その時…-。

アディエル「……っ!!」

アディエルくんの表情が、一気に青ざめる。

(え……)

彼の視線を追うと、近くの有刺鉄線が張り巡らされている場所に、子どもがふざけて入ろうとしていた。

アディエル「あっ、あぶねえ!」

身軽な子どもは、ひょいっと鉄線を超えて行こうとしていて……

アディエル「お前っ、何してんだ!?」

さっき横にいたアディエルくんが、素早い動きで、もう子どもを背後から抱きかかえている。

子ども「なにすんだよぅ!」

アディエル「お前こそ何してんだ! ここは禁止区域だろうが!」

バタバタと暴れる子どもを、しっかりと逃げられないように抱えたまま、アディエルくんは血相を変えて大きな声を出した。

子ども「うっ……ひっくっ、だって……っ」

アディエル「だってじゃねぇ! ここは危ねえって知ってるだろ!?」

子ども「うわーん、怖いよー!」

アディエル「まっ、えっ、な、泣くな! 入ったら大変なことになるから言ってんだぞ」

アディエルくんが、子どもを抱えたまま困惑した顔になる。

○○「あの、アディエルくん、きっとびっくりしたんじゃないかな。 突然、怒られたみたいに思って……」

アディエル「そ、そりゃ怒るに決まってんだろ!」

子ども「うっ、うわあーーん!」

アディエル「う……」

困ったようにアディエルくんは顔をしかめて、私に助けを求めるようにこちらを見る。

○○「大丈夫だよ。アディエルくんは、心配してただけだから」

子ども「うっ、ぐすっ、本当?」

○○「うん、本当。ね? アディエルくん」

アディエル「あ、ああ……そうに決まってんだろ」

すると、やがて子どもは落ち着いたようで……

○○「もう入ってはいけないところには行かないよね」

子ども「うん」

それを見て、アディエルくんは子どもを地面に下ろした。

すぐに子どもは、逃げるうさぎのように街に向かって走っていく。

アディエル「反省しろよ、そんでぜーーーったい、ここにはもう近づくなよ!」

念押しのように、アディエルくんは子どもに声をかけた。

けれど子どもは、振り返りもせず行ってしまった。

アディエル「せめて何か言えよなー……」

○○「子どもだから」

アディエル「子どもでも恩義は大事だぜ。ルシアンなんて、子どもの頃から礼儀正しかったからな」

(またルシアンさんの話だ)

アディエル「でも……随分、素っ気ない奴」

すねた口調で言うのが何だかかわいくて、私は微笑んだ。

(でも……)

アディエルくんの、さきほどの青ざめた表情を思い出す。

(何か……あったのかな)

少し小首を傾げながらも、なんだか聞いてはいけない気がして、私はただじっと彼を見つめることしかできなかった…-。

 

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