飛行機の部品を集め終え、しばらく経つと…―。
シュテル「やっぱり無理だ。直らない」
(また、シュテルさんの笑顔が見たいと思って旅をはじめたけれど、駄目なのかな……)
何とか形だけはそれらしく戻ったものの、飛行機のエンジンはかからない。
旅人「ええ、そのようですね。でも、もう十分です。旅は終わりにします」
男性は飛行機の機体を愛しげに叩き、砂漠に体を投げ出す。
旅人「王子にコイツをいただき、世界中を旅しました。夢のような日々だった……」
シュテル「直してやれなくて、済まない」
旅人「何を言っているんです!最高の旅の最後をくれたってのに」
シュテル「最高の?……願いを叶えられなかったのに?」
旅人「願いが叶うのもいいですがね、俺はもっと素敵なものをもらいましたよ。 こうして王子とお嬢さんに心を砕いてもらって……。 そのことを思い出すだけで、俺はこの先いつでも暖かい気持ちになる。 こんなに幸せな旅の終わりはありません」
男性が嬉しそうに笑い、そっと目を閉じる。
シュテル「……」
(シュテルさんが、笑ってる……)
旅人「お、色男の笑顔。お嬢さん、惚れ直しちゃうんじゃないですか」
○○「え、私は……!」
(でも……)
微かな笑顔。
彼が笑うだけで、こんなにも心が明るくなっていく。
シュテル「笑った覚えはないが……良ければ君の星まで送ろう」
旅人「いえ、いずれ仲間が来るはずなので、お気持ちだけで。 俺はもう少しコイツとここにいることにします。 ……あ!そうだ。良ければ、一緒に写真を撮らせてもらえませんか。 旅の終わりの、今日の記念に」
シュテル「写真……?」
旅人「地上の器械で、カメラってのがあるんですよ。 まあ、即席肖像画みたいなもんです」
男性は適当にカメラの台を作り、そっとカメラを載せる。
旅人「はい、じっとしてじっとして!」
そうして、メテオベール城に戻った後…―。
○○「シュテルさん、これ……」
私は、こみ上げる笑いを堪えることに精一杯だった。
シュテル「……もういいから」
3人で撮った写真を現像すると、笑顔の私と男性の間で、シュテルさん一人が人形のように固まっている。
シュテル「初めてだったんだよ。写真とやらを撮られるのは」
私の手から写真を取り上げて、シュテルさんはそれをポケットに入れてしまう。
シュテル「面白い技術もあるものだな……」
彼は、譲ってもらったカメラをしげしげと見つめ、レンズを覗き込んだ。
○○「じゃあ、二度目を撮らせてください。今度は笑ってくださいね」
ふざけてシュテルさんの手からカメラを取ろうとすると……
○○「シュテル、さん……?」
そっとカメラを机に置いたかと思うと、彼が私の背後に回る。
シュテル「それより……」
シュテルさんに、後ろから深く抱きしめられた。
○○「あ……っ」
口づけがうなじに落とされ、甘い痺れが体中に広がっていく。
シュテル「君に言いたいことがある」
○○「え……?」
シュテル「君が僕を連れ出して教えてくれた。 力がなくても、心を尽くせば人を笑顔にすることはできる。 僕も、苦労して見た笑顔のほうが、ずっと嬉しかった。 でもね……わかったんだ。僕が一番笑顔にしたいのは、君だって」
○○「シュテルさん……」
シュテル「子どもの頃から、ずっと考えてた。 どうして、王家に生まれて力を与えられえたのに、寿命が短いんだろうって。 僕は、何の為に生まれてきたんだろうって」
彼の唇が、首を辿り……やがて耳元に優しいキスを落とした。
シュテル「僕はきっと、君の願いを叶えるためだけに生まれてきたんだ」
○○「……っ」
シュテル「これからずっと……君がくれた命の全てをかけて、君の願いを叶えてあげたい。君の笑顔を、見ていたい」
彼の甘い囁き声に、私の大きな鼓動の音が混じる。
シュテル「笑って……」
そう言って、彼は私に小さな花束を差し出す。
○○「これ……」
シュテル「さっき、庭で摘んだんだ。君に本物の花をあげたくなって。 枯れたら……また摘んでくる。何度でも、君の笑顔を見る為に」
そう言って、彼は、愛おしそうに微笑んだ。
○○「シュテルさん……」
(どうしよう……溶けてしまいそう……)
彼の笑顔を見ていると、胸が幸せに満たされていく。
シュテル「大好きだよ……○○」
夜風がふんわりとカーテンを揺らす。
彼の瞳に映る私は、小さな花束を手に幸せそうに微笑んでいた…―。
おわり。