月8話 消えた力

あまりに透明な静寂が、ひどく耳に痛い…―。

しばらく押し黙っていたシュテルさんが、私の手首を握った。

シュテル「君は、何を願った?」

○○「私はただ、星屑が止まってくれれば……と」

シュテルさんは、瞬き一つせずに私を見つめる。

シュテル「成る程。その結果、僕は力を失ったのか」

(あのままシュテルさんがいなくなるのを見ているなんて、できなかった)

シュテル「僕は、またあの頃に戻るのか?願いを叶える力もない僕なんて……誰が必要としてくれる?」

○○「そんな……!」

シュテル「君に何がわかる?人の願いを叶えることは、僕が生きているたった一つの証だったんだ」

○○「人の願いは……力がなくたって、叶えられます。 無理なことだってあるけど、それでも一生懸命やれば、叶うことだってたくさんあるんです。 シュテルさん、言いましたよね?人の笑顔が好きだって。 その人達が、私が、シュテルさんの前で笑っていたのは…―」

シュテル「僕が星の力を借りて願いを叶えたからだ」

(違う……!)

シュテル「でも、その力はもう消えた」

(違う!!)

シュテルさんは、この上なく澄んだ瞳で私を見据える。

○○「……っ!」

たまらなく悲しくなり、シュテルさんからもらった胸元のネックレスの鎖を、思い切り引いた。

シュテル「……!」

繊細なネックレスの鎖が切れ、床に花の飾りが転がる。

○○「シュテルさん……違うんです」

シュテル「○○……?」

○○「こんなに素敵なものをいただいて、嬉しかったです。 でも、私が一番嬉しかったのは……シュテルさんが、笑ってくれたから。 シュテルさんの笑顔が嬉しかったんです。 枯れない花をあげたいと思ってくれた、その心が……嬉しかったんです」

シュテル「○○……」

シュテルさんが、呆然と私を見つめている。

その光を失った瞳を見て、心の底から、彼の笑顔を恋しく思った。

○○「シュテルさん、もう一度、やってみませんか。 人々の笑顔を、集めてみませんか」

シュテル「だから、それはもう出来ないんだよ」

○○「力がないと、本当にできないか。 人々が、何が嬉しくて笑っていたのか。 確かめにいきませんか」

シュテル「僕は…―。……○○」

シュテルさんは、静かに目を閉じる。

そして、私をそっと抱き寄せて……

シュテル「ありがとう。君は、優しいんだな」

彼の手が優しく私の背を叩く。

痛みに震えていた心が、ゆっくりと熱を取り戻していった…―。

 

<<月7話||月9話>>