静かな部屋のカーテンの向こう側で、星々がささやき合っている。
シャンデリアの灯がゆらゆらと揺れて、シュテルさんの長いまつ毛に影を作った。
シュテル「……何故怒る?」
○○「どうしてこんな……!」
シュテル「他に、どうすればいいんだ。 命を助けてもらった。礼をすべきだろう。 君が隣で寒さに震えていた。温めてやりたい。 泣いている子どもがいた。助けてやりたい。 花などという儚いものが好きだと言う君に、枯れない花をあげたかった。 ……僕は、願いを叶える他に人を喜ばせる術を知らない。 ずっとそうやって生きてきた」
○○「シュテルさん……」
どうしようもなく、涙がこぼれ落ちた。
シュテル「何故泣く?花をもっとやれば笑ってくれるのか? それとも、もっと流れ星をやればいいのか」
彼はそっと指を伸ばし、私の頬の涙を拭った。
その指先の冷たさが、一層私の心を締め付ける。
シュテル「すぐに、流れ星を…―」
○○「やめて!シュテルさん……もう、やめてください。 もしも、あの女の子が、私が……自分の願いがシュテルさんの命と引き換えに叶えられたと知っていたら、喜んだと思いますか? 皆、シュテルさんが幸せに笑っているほうが、願いが叶うより喜ぶとは思いませんか?」
シュテル「……そんなことは、考えたこともない」
○○「シュテルさん……」
そっと手を握ると、彼は微かに肩を震わせた。
シュテル「何故そんな目で僕を見るんだ」
○○「あなたの願いは……なんですか?」
シュテル「どうしろと言うんだ……!他の方法など、誰も教えてくれなかった。 誰も皆、願いが叶うと喜んだじゃないか。君も笑ってくれたじゃないか」
彼の手の中に、星屑時計のペンダントが握られていた。
ー----
シュテル「消えないように憶えておくから……いいんだ」
シュテル「花が好きか?」
○○「はい」
シュテル「枯れてしまうのに?」
ー----
シュテルさんの言葉が、繰り返し頭の奥で響く。
(シュテルさんは……消えてしまうの?)
地面が渦を巻き、全ての音が遠ざかっていった。
シュテル「君の願いはなんだ?どうしたら、泣き止む?」
(私の願い……?)
遠くで彼の声が聞こえる……
ー----
シュテル「願いを込めてこれを夜空に放すと、どんな願いでも一つだけ叶う。 目覚めさせてくれた礼だ」
ー----
(どんな願いでも……?)
誰よりも優しい人。
今はただ、そのことが悲しい。
(私の願いは……)
胸元のネックレスを握り、右手の中で光る流れ星を握りしめた…―。