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シュテル「久しぶりにあんなに笑ったら、少し……」
○○「大丈夫ですか!?」
シュテル「メテオベールの城へ」
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私達の乗った星はメテオベール城のある星に到着し、執事さんやお医者さん達の介抱の甲斐あって、シュテルさんは今、穏やかな寝息を立てていた。
(シュテルさん、ずっと具合が悪かったんだ。私がはしゃいだから、無理して付き合ってくれてたのかな……)
シュテルさんにもらったネックレスを握りしめる。
シュテル「ん……」
○○「シュテルさん?」
シュテルさんが目を開けて、まだ揺れる瞳で私を見つめる。
シュテル「○○……?」
○○「よかった!気分はどうですか?」
シュテル「大丈夫。落ち着いて」
シュテルさんは、なだめるように穏やかにそう言った。
シュテル「そんな顔しなくていい。いつものことだから」
(いつものこと……体が弱いっていうのは、今もそうなんだ)
シュテル「……」
自分の胸元を指で辿り、シュテルさんが不安げに星屑時計を握りしめる。
○○「あ……」
その砂時計を見たとき、初めて何かおかしいことに気付いた。
(あれ?)
違和感の原因……
それは、どんなに時計の角度を変えても、砂が重力に逆らうように頑として動かないことだった。
○○「それ……」
シュテル「ああ……」
私の表情を察して、シュテルさんが小さな声を紡ぐ。
シュテル「……これは、砂時計じゃない。星屑時計と言う。僕の残りの命が減ると、星屑が下に落ちる仕組みだ」
○○「え……?どういう、ことですか……?」
星屑時計の上部には、ほんのひとつまみほどの星屑しか残っていない。
彼があまりに事も無げに言うので、聞き間違いではないかと、何度も頭の中で彼の言葉を繰り返した。
シュテル「ああ……これはこの国の王族が生まれる時に作られるもので、寿命を知らせてくれると聞いている」
(じゃあ……シュテルさんの命は、あとこれだけ……?)
シュテル「僕の星屑は、もとから少なかった。体が弱かったからね。 これだと……あと、1、2回ってとこだな」
シュテルさんは、星屑時計をシャンデリアの明かりに掲げて言った。
(嘘だよね……?)
シュテル「まあ、それはいいんだ。やりたいことをやって死ぬなら、後悔はない」
彼の瞳は、どう見ても真剣そのものだった。
頭の中でぐるぐると考えが渦巻き、ほとんど息ができなくなってしまう。
○○「どうして、そんな風に……!それに、やりたいことって……? もしかして、さっき倒れたのも、これと関係があるんじゃないんですか?」
シュテル「……僕はもともと欠陥品だから。 星屑時計の星屑は、人の願いを叶えた数だけ落ちる。 うちの王族は、普通は信じられないほど長寿なんだ。 どんなに人の願いを叶えても、人よりも長く生きられる。 その王家に、欠陥品の僕が生まれた。 体が弱く、もともとの星屑の総量が極端に少なかった」
○○「じゃあ、もうこれ以上人の願いを叶えなければ……」
シュテル「死を恐れて臆病に生き、何もせずに生きながらえてどうなる? そんな生き方は、したくない。 もう、誰の役にも立てず、人を泣かせてばかりだったあの頃には、戻りたくない。 僕は、人の笑顔が好きなんだ」
シュテルさんの静かな声は、恐ろしいほどに澄んでいる。
渦巻く思考の中で、私は一つのことに思い至った。
○○「これは……!?もしかして、これもシュテルさんの命なんですか!?」
初めて会った時にもらった流れ星をポケットから取り出す。
○○「それに、これも……!」
シュテルさんが流れ星に願ってくれたコートとネックレス……
(お花畑も……全部シュテルさんの命と引き換えだったの?)
○○「どうして……!」
シュテルさんは、困ったように私の瞳を見つめる。
その瞳のあまりの美しさに、胸の奥が壊れそうに軋んだ…―。