流れ星に乗り、シュテルさんと次に降り立った星は…―。
(すごく賑やか)
其処此処で陽気な音楽が流れ、美しく着飾った人々が踊っている。
シュテル「ここでは、祭りが盛んなんだ。毎日意味もなく祭りをしている」
○○「そうなんですか……何だか夢の中にいるみたい」
(夜空のどこかで、毎晩こんなパーティーが開かれていたなんて)
楽しそうなお祭りの様子を眺めていると……
シュテル「……危ない」
○○「え?」
突然、シュテルさんに手を引かれた。
私がいた場所を、楽団が音楽を奏でながら通り過ぎていく。
○○「す、すみません」
シュテルさんの胸に頬を寄せる形になり、突然のことに心臓が大きく音を立てた。
シュテル「……君は、子供みたいだな。すぐに夢中になって、周りが見えなくなる」
○○「ごめんなさい……」
シュテルさんは、そう言いながらも人通りの多い道側へとまわってくれた。
(優しい……)
胸の高鳴りを押さえようと、胸に手を当てた時……
シュテル「だが、馬鹿みたいに呆けている君の顔を見るのも、なかなか楽しいものだ」
(馬鹿みたいって……)
顔が赤くなるのがわかる。
話題を変えようと、必死に頭を巡らせた。
○○「えっと……シュテルさんは、小さい頃どんな子だったんですか?」
シュテル「どんなって?」
○○「えっと、どんなことが好きでしたか?」
シュテル「君はどうだった?」
○○「近所を冒険したりしていたような気がします」
シュテル「冒険か。結構やんちゃだったのかな」
シュテルさんは、賑やかな町並みの向こうの星空を見つめた。
シュテル「楽しそうだ……僕は、遊んだ記憶はほとんどない」
○○「え?」
シュテル「ずっとベットにいた。体が弱かったから、唯一の楽しみは学問だった。 何の役にも立たないばかりか、生死を彷徨っては母を泣かせるだけの存在だった」
○○「そんな……」
シュテル「大人になって、初めて王宮を出て、人の願いを叶えた時は嬉しかったよ。 願いを叶えて、人が笑ってくれた時、初めて生きていると思えた」
(だから、願いを叶えた後、あんなに嬉しそうに笑っていたんだ……)
彼の表情はまるで澄んだ水のようで、私の胸を締め付けた。
返す言葉を探していると……
街人「さあお嬢さん、次はあなたの番だ!」
○○「え?」
街の人に声をかけられ、強引に椅子に座らせられる。
シュテル「おい、何を……」
街人「何って、メイクアップとスタイリングサービスだよ! パーティーでは、おめかししなくちゃあ」
○○「あの、私は…―」
断る隙もなく、あっという間にお化粧が進められ、コートの上からドレスローブを羽織らされる。
シュテル「……」
シュテルさんは、止めてくれるでもなく、どこか楽しげに様子を見ていた。
しばらくして、お化粧とスタイリングが仕上がると……
街人「さあ、できたよ!べっぴんべっぴん!なあ、兄さんもそう思うだろ?」
鏡を見ると、そこに映っていたのは、真っ赤なチークに、きつい口紅をつけ、滑稽なローブを着た私。
どこからどう見ても……
(怖い!)
シュテル「……っ」
シュテルさんを見ると、口元を押さえ、小さく震えている。
街人「べっぴんになり過ぎて口もきけねえってか? ま、仲良くやんな」
街の人が去って行くと……
シュテル「……っはは!!」
シュテルさんが、大きな笑い声を上げる。
シュテル「ははは!」
はじめて聞く彼の笑い声に、胸が甘く締め付けられる。
けれどもあまりに恥ずかしく、いますぐ消えてしまいたいような気持ちでいると……
シュテル「見せて」
ひとしきり笑い終えたシュテルさんが、目の端に涙を浮かべて私の顎をそっと引き上げる。
シュテル「……やってくれるね。ある意味、天才だ」
(恥ずかしい……!)
○○「私、落としてきます」
顔を背けようとすると、シュテルさんは私の顎をつまむ指に力を入れる。
シュテル「いいから」
シュテルさんは、ハンカチを取り出してそっと口紅やチークを拭ってくれた。
そして、後ろに回り、ローブのリボンを解いてくれる。
○○「あ、ありがとうございます……」
シュテル「もっと、あのままでいてくれても良かったんだけど、まあ、君には……このほうが似合うかな」
そう言って、シュテルさんが流れ星を生み、そっと私の首筋をなぞり……
シュテル「……君が好きだと言った、花だ」
○○「え……?」
胸元を見ると、繊細な金細工でできた花のネックレスが下がっている。
シュテル「花は枯れるけど、これなら……」
○○「綺麗……!で、でも、いただく訳には……」
シュテル「気に入らないか?」
○○「いえ、あんまり綺麗で……」
(なんだか申し訳ない)
シュテル「なら、いい。つけていろ」
シュテルさんが、優しく目を細める。
(優しい瞳……)
そのことが嬉しくて、笑顔がこぼれた。
そんな私を見て、彼は目を細め、そして……
○○「……っ!」
ネックレスを指ですくい、そっと唇を落とした。
突然のことに、息が止まりそうになる。
胸が高鳴り、口をきくことも出来ずにいると……
シュテル「このままダンスと言いたいところだけれど……帰ろうか。久しぶりにあんなに笑ったら、少し……」
○○「大丈夫ですか!?」
思わず触れた彼の手はさっきよりもずっと冷たくて、私は思わず息を飲む。
シュテル「メテオベールの城へ」
シュテルさんは、真っ青な顔で星に乗り、行き先を告げるなり倒れてしまった。
○○「シュテルさん!」
苦しそうな吐息が聞こえる。
星々の中を飛ぶ時間が、無情なほどに長く感じられた…―。