星々の光が真っ白な雪に吸い込まれていく…―。
歩いてみると、この星は本当に小さな星だった。
○○「見てください、雪だるまですよ」
切り株の上に小さな雪だるまを見つけ、足を止める。
シュテル「ゆきだるま?」
○○「雪だるま知らないんですか?こうやって…―」
と、一つ作ってみせると、シュテルさんは冷たくそれを見下ろした。
シュテル「何だその不格好なものは」
○○「ぶ、不格好って……!じゃあ、シュテルさんも作ってみてください」
少し拗ねてそう言うと、シュテルさんは優雅にしゃがみ込み、あっという間に完璧な丸を二つ作る。
(私よりずっと上手……)
私が作ったものを手本に顔を作ったはずなのに、どう見ても、それよりずっと可愛らしい雪だるまができあがった。
シュテル「簡単だ。君は案外不器用なんだな」
(……!)
○○「そ、そんなことはないですよ」
シュテル「そうか?丸の形がなんだかいびつだけど」
シュテルさんは、どこか面白そうに私の作った雪だるまを眺めている。
恥ずかしさに目をそらすと、シュテルさんは、私の手から不格好な雪だるまを取り上げる。
○○「?」
そうして、代わりに綺麗な雪だるまを私の手の上に置き、再び歩き始めた。
(交換してくれるってことかな……?)
○○「いいんですか?」
シュテル「どうせすぐに溶ける」
○○「ありがとうございます」
何だか嬉しくなって、止めようもなく笑顔が溢れる。
そんな私を見て、シュテルさんが嬉しそうに笑った。
○○「……っ」
(また、あの笑顔だ……)
胸に手を当て、息を吸った時……
シュテル「……いた。あそこだ」
シュテルさんが雪の彼方を指し示した。
(女の子?)
近寄ると、小さな女の子が一人、雪の中にしゃがみ込んでいる。
シュテル「どうした」
シュテルさんが話しかけると、女の子は怯えたように顔を上げた。
女の子「おにいちゃん、だれ?」
小さなうさぎが三匹、慌てて女の子の胸元に飛び込む。
シュテルさんは雪の中に膝をついて目線を合わせ、女の子に優しく話しかけた。
シュテル「怖がらなくていい。僕はメテオベール王家の王子、シュテルだ。 願いを叶えにきた」
女の子「あの……おねがいをかなえてくれる、おうじさま?」
シュテル「ああ」
女の子は、途端に瞳をキラキラと輝かせた。
女の子「あのね、遠くの国におひっこししないといけないの。 だからね、わたしのおねがいは、この子たちのことなの」
コートの胸元から顔を出している3匹のうさぎ達をシュテルさんに見せる。
女の子「つれていけないんだって。わたしがいなくなったら、この子たち、雪にこごえちゃうから」
女の子の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
女の子「おうじさま……」
シュテル「……」
シュテルさんは、ポンと女の子の頭に手を置くと、流れ星を生み出す。
そうして願いを唱えると、胸元の砂時計が輝き…―。
女の子「わあ……!」
目映い光が消えた後、私達の足下には花畑が広がっていた。
遠くで雪が降っているのが見えるけれど、この場所だけは不思議と暖かい。
○○「綺麗……」
うさぎ達が女の子の胸元から飛び出し、嬉しそうに花畑を飛び跳ねた。
シュテル「……これで、安心できるか?」
女の子「うん!ありがとう」
シュテル「ああ」
女の子が声を出して笑い、楽しそうにうさぎ達を追いかける。
その後ろ姿を見て、シュテルさんは、この上なく優しい顔で笑った。
(優しい人……人の笑顔が、本当に嬉しいんだ)
シュテルさんが笑うと、心が暖かく、そして苦しくなる……
シュテル「……忘れていた」
その声にふと顔を上げると、彼は、足元で溶けかけている不格好な雪だるまを見つめていた。
(急に暖かくなったから、溶けてしまったんだ……)
○○「でも、こっちは無事ですよ」
シュテルさんが作った綺麗な雪だるまを差し出すと、彼は静かに首を振る。
シュテル「……いい」
そう言って私の手から雪だるまを取ると、そっと溶けかけの雪だるまの隣に置いた。
○○「??」
シュテルさんは、雪だるまをしばらく見つめ、そっと瞳を閉じる。
しばらくして目を開けると、そのまま雪だるまから背を向けてしまった。
シュテル「行こう」
○○「え?でも、雪だるまは……?」
シュテル「いい」
そうして、遠くでうさぎと駆け回る女の子のことも、雪だるまと同じように見つめ…―。
シュテル「消えないように憶えておくから……いいんだ」
○○「え……?」
彼の言葉が夜空に吸い込まれ、何故だか胸が騒ぐ。
もう一度尋ねる代わりに、風が運んできた花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
○○「……いい香りですね」
黙り込んでしまったシュテルさんに、そう言って笑ってみせる。
シュテル「花が好きか?」
○○「はい」
シュテル「枯れてしまうのに?」
○○「それでも、大好きです」
シュテル「……そうか」
シュテルさんは、何故だか苦しそうに目を細めた。
シュテル「さあ、もう本当に行かないと」
○○「え?でも、あの子に挨拶を」
シュテル「流れ星が来てしまったから」
○○「……はい」
シュテルさんは、決して後ろを振り向かなかった。
その後ろ姿を見つめ、私は何故だか言いようもなく切ない気持ちになったのだった…―。