星々の間を縫うように、シュテルさんと私を乗せた流れ星が夜空を滑っていく…―。
地面に足が着くと、私は瞬きも忘れてシュテルさんの瞳を見つめた。
(私、流れ星に乗ったの?ムーンロードで初めて空を渡った時も驚いたけど、流れ星に乗るなんて……)
シュテル「……」
シュテルさんは、信じられないという顔で私を見つめている。
○○「すみません、私……」
思わずうつむいて、初めて気がついた。
(さ、寒い)
足下は一面の雪原で、あまりの寒さに自分の体を抱きしめる。
シュテル「連れて来てしまうなんて……」
シュテルさんは小さくため息を吐き、私の肩の雪を払ってくれた。
○○「シュテルさんの手が……」
シュテル「いいから」
彼は、私の頬に舞い降りた雪をそっと指先ですくった。
○○「私、星に乗るなんて初めてでした。 メテオベールの方は、皆さん乗れるんですか?」
なんだか恥ずかしくなって、早口で尋ねる。
シュテル「メテオベール王家の者だけだ。 星降る夜には、流れ星に乗って地上とメテオベールの間を行き来できるし、小さな星々になら流れ星がなくても行ける」
○○「素敵ですね……」
思わずほうっとため息を吐くと、シュテルさんは夜空の星に視線を移した。
シュテル「さっきいたのは……あの星か。この星でやることがある。 終わったら元の場所に送るから」
○○「やることですか?」
シュテル「願いを叶えに来た」
○○「願いを叶えに?」
(あ……私、また質問ばかりして)
シュテル「……そうだな」
シュテルさんは、咎めることなく静かに口を開いた。
声は冷たいけれど、さり気なく私の前を歩いて雪を踏み固めてくれている。
シュテル「うちの王家の人間は、流れ星の力を借り、人の願いを叶える能力を持っている。 そして、人々の願いを叶えるという約束で、小さな星々を取りまとめる権力を手に入れた。 今日は、この星から切なる願いの声を感じた。 仕事に来る途中で、ユメクイに襲われてしまったんだ。」
○○「そうなんですか……流れ星にお願いをするなんて、素敵ですね」
けれど…―。
シュテル「素敵?流れ星はいずれ消える。それが素敵なことなのか?」
○○「え?すごく素敵だと思いますけれど……」
サリサリと雪を踏む音が止んで、シュテルさんが急に立ち止まった。
○○「あの……?」
シュテル「……いや、何でもない」
シュテルさんの真っ白な頬に少しだけ赤みがさしている。
シュテル「すぐに済ませて君を送ろう」
彼の横顔が何故だか夜空に消え入ってしまいそうに見えて、思わず袖を引いてしまった。
シュテル「何?」
尋ねられて、必死に思考を巡らせる。
○○「あの……」
(そうだ……)
○○「良かったら、少しの間、一緒に連れて行ってもらえませんか? 願いを叶える旅……見てみたくて」
とっさの思いつきだったけれど、それは本心だった。
つい先ほど流れ星に乗った時からずっと、魔法のような出来事に胸が高なっている。
○○「おとぎ話みたいで素敵だなって……」
シュテルさんは、少し迷ってから面倒くさそうに頷いた。
シュテル「恩人の言葉だ、無視はできない」
○○「いいんですか?」
シュテル「ここで放り出されても、困るだろう」
そんな風に言いながらも、シュテルさんは私の肩や髪に降り続く雪を何度も優しく払ってくれる。
シュテル「震えてる……君はこのままでは風邪を引きそうだな」
シュテルさんは、再び細く長く息を吐き、流れ星を生み出す。
今度は捕まえることなく、流れ星に何かを囁くと、シュテルさんの胸元の砂時計が光り…―。
○○「わあ……!」
どこからともなく、真っ白で暖かそうなコートが現れた。
○○「すごい!ありがとうございます」
シュテル「……別に」
彼がコートを肩に掛けてくれると、それはまるで……あつらえたように私にぴったりだった。
○○「あったかいです」
笑いかけると、シュテルさんはとても嬉しそうに微笑む。
シュテル「……そうか」
(え……)
ずっと無表情だった彼のあまりに無防備な笑みに、私の胸がトクンと音を立てた。
シュテル「行くよ」
シュテルさんが手を差し伸べてくれる。
繋いだその手は氷のように冷たいのに、不思議と頬が熱を持っていった…―。