○○を探しに、街へとやってきた俺は……
グラッド「どこ行った……?」
―――――
グラッド「何だかよくわからないけど、パンを見た瞬間、ドキドキして……。 それなのに食べられないって思ったら、苛々して……。 こんなのは初めてだし、こんなふうに食い物のこと考えたのも初めてだ……!」
―――――
○○が俺のためにパンを作ってくれたけど、俺は食べられずに逃げ出した。
(本当は食べたかったのに……)
(食べたらなくなると思ったら……嫌だったんだ……)
あの後、思い直して○○のもとに戻ったけれど…-。
もうそこには○○の姿はなかった。
(パンを持って街へ行ったみたいだって聞いたけど……)
(いったい、どこに行ったんだ?)
子ども1「僕にもちょうだーい!」
子ども2「やったー!」
広場まで出ると、子ども達の嬉しそうな声が聞こえてきた。
集まった街の者の真ん中に、○○の姿を見つけた。
(○○……)
○○の腕を掴んだ。
グラッド「何してんだ」
○○「……!」
○○が持った籠の中を見て、俺の中に衝撃が走った。
グラッド「……! それ……」
○○が配っていたのは、パンだった。
俺のために作ったはずのパン…-。
(なんで……?)
(だってこれは俺のだろ!?)
○○「あの…-」
○○が俺を不思議そうな顔で見上げている。
(なんでわからないんだ……?)
(イライラする……)
(頭がどうにかなりそうだ……)
(さっきは逃げたけど……今は、あのパンが食べたい。それに、もっと食べたいのは……)
○○「……っ!」
俺は○○を抱き寄せ、そのまま唇を重ねた。
街の人1「グ、グラッド王子……?」
街の人2「い、一体……」
街の者達の声が聞こえるけれど、どうでもいい。
(俺が、食べる……)
(食べたい!)
(こんな思いをするぐらいなら……俺が食べ尽くしてやる……!)
○○「あ、あの……」
グラッド「……」
俺は○○の手を引いて歩き出した。
(もう離さない……好きなだけ貪り食ってやる)
俺は思い知った。
食べないなんて、後悔しか生まないことを…-。
(そうだ……我慢なんて俺に出来るわけがないんだ……)
(だって俺は、この世の全てをむさぼり食べる欲を司る一族なんだから……)
…
……
(あれ……?)
朝の光を受け、俺は重いまぶたを開ける。
(夢を見ていたのか……)
グラッド「懐かしい夢だ……」
(あれは、○○が初めてパンを焼いてくれた日の夢……)
大きく伸びをして、傍で眠っているはずの○○を探す。
グラッド「あれ……いない……」
(腕の中に抱きしめておいたはずなのに、いつもいつの間にかいなくなる……)
グラッド「どこ行ったかは……わかるけど……」
起き上がって、部屋を出る。
美味しそうな匂いが廊下にただよっていた。
(これはパンの匂い……)
(○○の焼くパンの匂いだけはわかる……)
グラッド「だから……あんな懐かしい夢を見たのか……?」
パンの匂いが、俺の食欲を掻き立てる。
(腹が減った……)
グラッド「食べたいなぁ……」
…
……
匂いをたどり、俺は厨房にやって来た。
思った通り、○○がそこでパンを焼いていた。
グラッド「やっぱり、ここにいた……」
○○「っ……!」
俺は、○○を後ろから抱きしめた。
首筋に顔をうずめると、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
(美味しそう……)
匂いに誘われて、○○の首筋を舐めた。
○○「グラッドくん……あの……今パンを作ってるから……」
グラッド「うん……腹が減った……。 けど……」
俺は○○をさらに強く抱きしめた。
グラッド「パンも食べたいけど……○○も食べたい」
○○の首から鎖骨にかけてゆっくりと唇を這わす。
○○「っ……!」
○○の首が真っ赤に染まっていった。
(だめだ……食べたくてたまらない……)
グラッド「部屋に……戻るぞ」
○○「あ……グラッドくん……!」
○○を抱き上げて、部屋へと歩き出す。
○○「今、パンを焼いていて……」
グラッド「後でもいい」
○○「いいって言われても……」
グラッド「なら……ここで食べてもいいのか……?」
○○「っ……! い……いいえ……」
○○は大人しく俺の首にしがみついた。
(どれだけ食べても足りない)
(きっと食べた傍から……腹が空くんだろう……)
グラッド「パンなら焼くまで時間がかかる……それか、誰かに頼む……」
○○を食べた後に、ゆっくりと…-。
それでいい…-。
おわり。