城の調理場で、料理を始めてからしばらくの後…-。
グラッド「おお……」
こんがりと焼き上がった手製のパンを前に、グラッドくんは目を輝かせた。
グラッド「パンの匂いだったのか」
○○「うん。ちょっと作り過ぎだったかもしれないけど……それに、形もなんだか変だし……」
いびつな形に焼き上がったパンを見て、恥ずかしさに頬を染める。
グラッド「そんなの、別に問題ねえよ」
グラッドくんは、高く積まれたパンの山を、じっと見つめている。
その頬はわずかに上気していて、焼きたてのパンを喜んでくれているようだった。
けれども…-。
グラッド「パンの匂い……初めて嗅いだ気がする。 パンを食べるの、初めてじゃないのに……あんたが作ってくれたパンの匂い……あんたが俺のために……」
○○「グラッドくん?」
グラッドくんは、ぶつぶつと独り言を言い始め、突然、堪らなくなったかのようにぎゅっと目を閉じた。
グラッド「……っ、ただの食べ物なのに……」
○○「え……?」
グラッドくんが突然、椅子から立ち上がる。
そうしてもう一度パンの山を見た後、すぐに勢いよく目をそらした。
グラッド「やっぱり食べられない。無理」
○○「えっ? あ……」
逃げるように立ち去ろうとするグラッドくんを見て私は…-。
○○「待って……!」
私は思わず、グラッドくんの腕を掴む。
けれども……
グラッド「……待っても、食べられない」
苦しげに吐き捨てるように言って、グラッドくんは目を伏せてしまう。
グラッド「……俺が食べ物を食べられない、なんて……。 こんなの、わけがわからない……。だってあんたのこと興味ないし、それにあんたといるだけじゃ腹も膨れない! そのはず、なのに……」
グラッドくんは、再び独り言を言い始め、その表情には困惑の色が浮かんでいた。
○○「……ごめんね、勝手なことして。 少しずつでも、友達になれればって思ったんだけど……」
グラッド「そ、そんな顔するな! 俺が友達になってくれって言ったわけじゃないんだ。 親が勝手に言ったんだし、あんたは、別に……」
グラッドくんは、落ち込む私にそう言った後、悔しげに歯がみする。
そして……
グラッド「……もう、嫌だ」
○○「え……?」
グラッド「何だかよくわからないけど、パンを見た瞬間、ドキドキして……。 それなのに食べられないって思ったら、苛々して……。 こんなのは初めてだし、こんなふうに食い物のこと考えたのも初めてだ……!」
○○「あ……」
グラッドくんは、苦しげにつぶやくと、逃げるように走り去ってしまったのだった…-。