分厚い雲に覆われたヴォタリアの街角で行われる、ストリートバスケ…―。
しばらくすると試合は終わり、ウェディくんは約束通り私を街へと連れ出した。
ウェディ「あんまりオレから離れるなよ?あと、足痛いとか疲れたとかあったらすぐ言えよ?」
○○「うん、大丈夫」
ウェディ「あっ、そこ段差あるから気をつけろ!」
○○「ありがとう」
(ウェディくんって心配性なのかな?)
(さっきからすごく私のこと気にかけてくれるような……)
ウェディ「そういやさっきの店、この街じゃ有名なんだけど、大丈夫だったか?」
○○「平気だよ、少しだけ驚いたけど」
ウェディくんの言葉で、先ほど寄った監獄レストランのことを思い出す。
(さすがに鉄格子の中でランチをするとは思わなかったけど……)
けれども、彼の案内してくれる場所はどこも賑やかで楽しく、少し不気味だと感じていた街の印象も、だいぶ変わったきた。
(でも、これは少し恥ずかしいな……)
私は、前を歩くウェディくんに繋がれた手を見る。
彼は街を回る間中、ずっと私の手を繋いだままだった。
少しだけ私より高い体温が、何故だかくすぐったい。
ウェディ「ええと、飯食ったし公園行ったし、時計塔も見たし、後は……地下闘技場かな」
○○「闘技場?それって……」
ウェディ「ああ、大丈夫だよ。○○を案内するのは、もちろん王族用のVIP席だからさ! 怖いことなんてなにもねえから、安心しろよ。なっ!」
私はウェディくんに手を引かれ、闘技場へと向かい……
その後も、様々な場所を案内してもらう。
彼の案内してくれる場所は、どこも刺激的で面白くて、あっという間に時間が過ぎていたのだった…―。
…
……
空が赤く染まった頃…―。
ウェディくんは、私を巨大な建造物の前へと連れてきた。
○○「ここは?」
石造りの高い塀を見上げると、たくさんの鉄格子がはまっている。
ウェディ「オレの仕事場だ。平たく言うと、この国の監獄だよ。 ヴォタリアが7つ監獄からなる国だっていうのは知ってるよな?」
○○「……少しだけ」
そう答えると、ウェディくんは私の手を引き……監獄の外れにある、石碑の前へと歩みを進めた。
石碑はかなり昔からその場所にあるようで、表面には文字が刻まれている。
ウェディ「この石碑には古い文字で、7つの罪過の『嫉妬』について彫ってあるんだ」
○○「嫉妬……?」
罪過の国にある7つの巨大の監獄は、それぞれ7つの罪過を犯した罪人を収容しているらしい。
元々は地の国で罪を犯した者達の流刑地とされていたけれど、それぞれの監獄の官吏を務めていた者が王族となり、今のヴォタリアが形成されたそうだ。
ウェディ「オレは『嫉妬』の監獄の官吏を務めていたヤツらの子孫なんだ」
ウェディくんは、そこまで説明すると、ふっと息を吐いた。
あけすけな彼にしては、その横顔は何かを抱えているようで……
(どうしたのかな?)
私は、口を閉ざした彼に…―。
○○「ウェディくん?」
ウェディ「あっ、ゴメン!いきなり黙っちまって……」
○○「ううん、話したくないなら無理に話さなくても大丈夫だよ」
ウェディ「いや……何でだろうな、○○には聞いてほしいって思うんだ。 オレ……小さな頃から、ずっと人の嫉妬に触れながら生きてきたんだ。 もちろんオレも嫉妬に晒されたし、そんな生い立ちだからオレ自身に宿った嫉妬の魔力も強い……。 そのせいで……小さな頃は、城のヤツらを困らせることもあって…―」
(困らせる? どういうこと……?)
○○「……」
沈痛な面持ちに何と言っていいかわからなくなって、つい黙り込んでしまった。
ウェディ「……なんか変な話したな。悪ィ、気にしなくていいからな?」
ウェディくんは、曖昧に微笑んだ後……
ウェディ「心配しなくても今は大丈夫!ため込んだ力はスポーツで発散できるってわかったから」
○○「じゃあ、あのバスケも?」
ウェディ「……そういうこと。けど、体を動かすのは純粋に好きなんだ。 この体は普通の人間よりずっと頑丈だしな」
そう言って彼は背後に見える羽と尻尾を動かす。
ウェディ「けど、『嫉妬』って感情のことを学んだり考えても、一個だけどうしてもわかんなくて……」
○○「え……? 嫉妬って、そんなに種類があるの?」
ウェディ「あるよ。才能とか境遇とか……そりゃもう、いろんなものに対して。 そういうのはわかるんだけど……」
○○「じゃあ、ウェディくんのわからない嫉妬って……」
ウェディ「……」
ウィディくんは、唇を歪めて黙り込んでしまった。
けれども、私はちらりと見た後、意を決したように口を開く。
ウェディ「その……なんていうか、れ……」
○○「れ……?」
私が問いかけると、ウェディくんは怒ったような感情を浮かべる。
そして……
ウェディ「恋愛だよ!恋!バカ、言わせんじゃねェっ!クソッ、恥ずかしい!!」
○○「……っ、ごめんなさい……」
顔を真っ赤にした彼は、私に背を向けてしまうのだった…―。