第3話 嫉妬の国の王子

分厚い雲に覆われたヴォタリアの街角で行われる、ストリートバスケ…―。

しばらくすると試合は終わり、ウェディくんは約束通り私を街へと連れ出した。

ウェディ「あんまりオレから離れるなよ?あと、足痛いとか疲れたとかあったらすぐ言えよ?」

○○「うん、大丈夫」

ウェディ「あっ、そこ段差あるから気をつけろ!」

○○「ありがとう」

(ウェディくんって心配性なのかな?)

(さっきからすごく私のこと気にかけてくれるような……)

ウェディ「そういやさっきの店、この街じゃ有名なんだけど、大丈夫だったか?」

○○「平気だよ、少しだけ驚いたけど」

ウェディくんの言葉で、先ほど寄った監獄レストランのことを思い出す。

(さすがに鉄格子の中でランチをするとは思わなかったけど……)

けれども、彼の案内してくれる場所はどこも賑やかで楽しく、少し不気味だと感じていた街の印象も、だいぶ変わったきた。

(でも、これは少し恥ずかしいな……)

私は、前を歩くウェディくんに繋がれた手を見る。

彼は街を回る間中、ずっと私の手を繋いだままだった。

少しだけ私より高い体温が、何故だかくすぐったい。

ウェディ「ええと、飯食ったし公園行ったし、時計塔も見たし、後は……地下闘技場かな」

○○「闘技場?それって……」

ウェディ「ああ、大丈夫だよ。○○を案内するのは、もちろん王族用のVIP席だからさ! 怖いことなんてなにもねえから、安心しろよ。なっ!」

私はウェディくんに手を引かれ、闘技場へと向かい……

その後も、様々な場所を案内してもらう。

彼の案内してくれる場所は、どこも刺激的で面白くて、あっという間に時間が過ぎていたのだった…―。

……

空が赤く染まった頃…―。

ウェディくんは、私を巨大な建造物の前へと連れてきた。

○○「ここは?」

石造りの高い塀を見上げると、たくさんの鉄格子がはまっている。

ウェディ「オレの仕事場だ。平たく言うと、この国の監獄だよ。 ヴォタリアが7つ監獄からなる国だっていうのは知ってるよな?」

○○「……少しだけ」

そう答えると、ウェディくんは私の手を引き……監獄の外れにある、石碑の前へと歩みを進めた。

石碑はかなり昔からその場所にあるようで、表面には文字が刻まれている。

ウェディ「この石碑には古い文字で、7つの罪過の『嫉妬』について彫ってあるんだ」

○○「嫉妬……?」

罪過の国にある7つの巨大の監獄は、それぞれ7つの罪過を犯した罪人を収容しているらしい。

元々は地の国で罪を犯した者達の流刑地とされていたけれど、それぞれの監獄の官吏を務めていた者が王族となり、今のヴォタリアが形成されたそうだ。

ウェディ「オレは『嫉妬』の監獄の官吏を務めていたヤツらの子孫なんだ」

ウェディくんは、そこまで説明すると、ふっと息を吐いた。

あけすけな彼にしては、その横顔は何かを抱えているようで……

(どうしたのかな?)

私は、口を閉ざした彼に…―。

○○「ウェディくん?」

ウェディ「あっ、ゴメン!いきなり黙っちまって……」

○○「ううん、話したくないなら無理に話さなくても大丈夫だよ」

ウェディ「いや……何でだろうな、○○には聞いてほしいって思うんだ。 オレ……小さな頃から、ずっと人の嫉妬に触れながら生きてきたんだ。 もちろんオレも嫉妬に晒されたし、そんな生い立ちだからオレ自身に宿った嫉妬の魔力も強い……。 そのせいで……小さな頃は、城のヤツらを困らせることもあって…―」

(困らせる? どういうこと……?)

○○「……」

沈痛な面持ちに何と言っていいかわからなくなって、つい黙り込んでしまった。

ウェディ「……なんか変な話したな。悪ィ、気にしなくていいからな?」

ウェディくんは、曖昧に微笑んだ後……

ウェディ「心配しなくても今は大丈夫!ため込んだ力はスポーツで発散できるってわかったから」

○○「じゃあ、あのバスケも?」

ウェディ「……そういうこと。けど、体を動かすのは純粋に好きなんだ。 この体は普通の人間よりずっと頑丈だしな」

そう言って彼は背後に見える羽と尻尾を動かす。

ウェディ「けど、『嫉妬』って感情のことを学んだり考えても、一個だけどうしてもわかんなくて……」

○○「え……? 嫉妬って、そんなに種類があるの?」

ウェディ「あるよ。才能とか境遇とか……そりゃもう、いろんなものに対して。 そういうのはわかるんだけど……」

○○「じゃあ、ウェディくんのわからない嫉妬って……」

ウェディ「……」

ウィディくんは、唇を歪めて黙り込んでしまった。

けれども、私はちらりと見た後、意を決したように口を開く。

ウェディ「その……なんていうか、れ……」

○○「れ……?」

私が問いかけると、ウェディくんは怒ったような感情を浮かべる。

そして……

ウェディ「恋愛だよ!恋!バカ、言わせんじゃねェっ!クソッ、恥ずかしい!!」

○○「……っ、ごめんなさい……」

顔を真っ赤にした彼は、私に背を向けてしまうのだった…―。

 

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