紅鏡の国・フレアルージュ 輝の月…ー。
豪壮な広間に、張り詰めた空気が満ちている。
厳重な警備や、アポロ王子を取り囲む十数名の衛兵達を前に、招待を受けた私は…
○○「……」
ユメクイの眠りから目覚めたアポロ王子を前に
ひどく萎縮してしまい、上手く言葉が紡げないでいた…ー。
アポロ「無口な女だ。貴様、本当にトロイメアの姫か」
○○「は、はい……!」
燃えるような緋色の瞳に見据えられ、声が裏返ってしまった。
アポロ「返事もまともにできないのか」
低く鋭い声が、謁見の間に響きこだまする。
アポロ王子のその雄々しさに、私は完全に気圧されていた。
(せっかく呼んでいただいたのに、こんなことじゃ……)
けれど考えれば考えるほど、頭の中が真っ白になっていく…ー。
すると……
アポロ「もう良い。貴様のような者が、トロイメアの姫などとは笑止。 俺を目覚めさせたのも、何かの偶然に違いない。 トロイメアとは、さぞ高潔な人間が住まう国だと思っていたが…。 王族がこのような様子では、たいしたことはなかったようだ」
○○「それは…ー」
アポロ「ほう、口答えか」
ニヤリと唇のはじが、弧を描き上向く。
アポロ「しかし貴様、初めて俺の顔をまっすぐに見たな」
(怖い……でも)
ぞくりとするほどの威厳と、自信に溢れた笑みが私に向けられている。
(なぜだろう。惹きつけられる…)
自分でも理解のできないその引力に吸い込まれてしまわないよう、
私は必死に、彼の瞳を見つめ続けていた。
アポロ「悪くはない。その瞳だけは認めてやろう。 では、望みを言え」
○○「え……?」
アポロ「この俺を目覚めさせた礼として、一つだけ望みを叶えてやる」
アポロ王子が、玉座から厳かに立ち上がる。
アポロ「この国で俺にできんことは、何一つとしてない」
私から望みを求めるその瞳は、燃え盛る炎を宿しているように思えた…。