第3話 雛鳥のように

まるで雛鳥のように私に懐いてくるカノトさんと話をしていると……

従者「お話中に失礼いたします。よろしければぜひ、九曜の街を見ていかれては」

カノト「そう! 僕、案内する」

(えっ、お城から出たことないって……)

〇〇「カノトさん、外に出て大丈夫なんですか?」

カノト「大丈夫。きみがくるまでに、街のこと、学んだ」

従者さんは心配そうにカノトさんを見つめた後、そっと彼に地図を渡した。

カノト「地図もらった……大丈夫。 きみが喜ぶ顔、見たくて」

カノトさんが、得意そうに地図をぎゅっと握りしめる。

(私のために……勉強してくれたんだ)

〇〇「じゃあ、どこに行きましょうか?」

カノトさんの気持ちが嬉しくて、私の声も自然と弾み出した。

カノト「最初に出会った森。とても綺麗だった、あそこ行こう」

カノトさんが、とても嬉しそうに提案してくれる。

〇〇「いいですね。よろしくお願いします」

カノト「僕、案内、がんばる」

決意に満ちた表情に口元が自然と綻んでしまう。

早速、城から出ると活気に溢れた街に目を見張った。

瓦屋根の並ぶ趣のある美しい街並みに、行き交う人々は生き生きとした表情をしている。

(街全体が熱を持ってるみたい……)

ふとカノトさんを見ると、道に迷ったのか、辺りをきょろきょろ見回している。

カノト「あれ? こっち? あっち? どっち?」

周りの景色と地図と見比べては、困ったように眉をひそめる。

(もしかすると、地図を見てもわからないのかも……)

〇〇「カノトさん、私も地図を見てもいいですか?」

カノト「うん! いいよ。はい」

〇〇「ありがとう。さっそく森に向かいましょうか……まるで探検みたいですね」

カノト「探検! 楽しそう。行こう」

先ほどまでの困り果てた表情から一変、はつらつとした表情に変わる。

(くるくる表情が変わって、可愛いな)

そんなことを思いながら地図を広げ、慎重に現在地と目的地を確認する。

(ここが森だから、左の道……?)

歩き始めると、カノトさんは私の後ろをついてきた。

カノト「こっち、なんだね」

〇〇「えっと……」

私が立ち止まると、同じようにカノトさんもぴたりと足を止める。

(可愛い……まるで親鶏の後を追いかけるひよこみたい)

微笑ましい気持ちになって、私達は道を進んでいった…-。

……

しばらく歩いたところで、急に木枯らしが吹きつけてきて、寒さに震えた。

しかも……

(あっ!)

強い風でスカートが翻って、慌てて抑えると……

カノト「それ、寒い?」

興味深そうな顔でカノトさんが聞いてくる。

〇〇「! だ、大丈夫ですよ」

カノト「ふーん。でも、ひらひらしてる。この下に何か履いてる?」

カノトさんはスカートに興味津々なのか、てらいもなく裾を持ってめくろうとした。

〇〇「……っ!」

私は、慌ててカノトさんの手を抑えた。

カノト「……?」

きょとんと私を見つめる瞳は、どこまでも無垢で……

〇〇「めくっちゃいけないもの……なんですよ」

なるべく柔らかな口調で、私は彼にそう言った。

カノト「あ、ごめんなさい……また、やっちゃった?」

カノトさんはすぐに手を離して、首を傾げる。

カノト「僕、世間知らず?」

〇〇「え……?」

カノト「ヒノト兄とカノエ兄、僕をそう呼んだ。 大事に育てられた結果……って言ってた。そうなの?悪い子?」

〇〇「大事に育てていただいたなら、悪くはないです……」

カノト「嘘、じゃない?」

〇〇「はい。世間のことは、これからいろいろと学んでいけばいいんですよ」

カノト「僕、もっといろいろ知りたい。知れば、もっといい子になれる? きみを困らせること、したくない」

〇〇「……!」

真っ直ぐな彼の視線を受け、胸がくすぐられる。

〇〇「これから、たくさん学んでいきましょうね」

カノト「そうだね。そう、する」

息を呑むほど美しい彼の笑顔が向けられ、どきりとした瞬間…-。

〇〇「……っ」

また木枯らしが吹きつけてきて、寒さに震える。

カノト「大変!」

カノトさんが慌てた様子で、私の手を握りしめた。

(……え?)

カノト「こうすれば、寒くない」

白い彼の手は、驚くほどに温かくて……

(何だか胸が、きゅっとする……)

〇〇「……はい」

そして、私達は手を繋いだまま森を目指す冒険を再開する。

カノトさんの手の温もりが、私を木枯らしの寒さから守ってくれているような気がした…-。

 

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