まるで雛鳥のように私に懐いてくるカノトさんと話をしていると……
従者「お話中に失礼いたします。よろしければぜひ、九曜の街を見ていかれては」
カノト「そう! 僕、案内する」
(えっ、お城から出たことないって……)
〇〇「カノトさん、外に出て大丈夫なんですか?」
カノト「大丈夫。きみがくるまでに、街のこと、学んだ」
従者さんは心配そうにカノトさんを見つめた後、そっと彼に地図を渡した。
カノト「地図もらった……大丈夫。 きみが喜ぶ顔、見たくて」
カノトさんが、得意そうに地図をぎゅっと握りしめる。
(私のために……勉強してくれたんだ)
〇〇「じゃあ、どこに行きましょうか?」
カノトさんの気持ちが嬉しくて、私の声も自然と弾み出した。
カノト「最初に出会った森。とても綺麗だった、あそこ行こう」
カノトさんが、とても嬉しそうに提案してくれる。
〇〇「いいですね。よろしくお願いします」
カノト「僕、案内、がんばる」
決意に満ちた表情に口元が自然と綻んでしまう。
早速、城から出ると活気に溢れた街に目を見張った。
瓦屋根の並ぶ趣のある美しい街並みに、行き交う人々は生き生きとした表情をしている。
(街全体が熱を持ってるみたい……)
ふとカノトさんを見ると、道に迷ったのか、辺りをきょろきょろ見回している。
カノト「あれ? こっち? あっち? どっち?」
周りの景色と地図と見比べては、困ったように眉をひそめる。
(もしかすると、地図を見てもわからないのかも……)
〇〇「カノトさん、私も地図を見てもいいですか?」
カノト「うん! いいよ。はい」
〇〇「ありがとう。さっそく森に向かいましょうか……まるで探検みたいですね」
カノト「探検! 楽しそう。行こう」
先ほどまでの困り果てた表情から一変、はつらつとした表情に変わる。
(くるくる表情が変わって、可愛いな)
そんなことを思いながら地図を広げ、慎重に現在地と目的地を確認する。
(ここが森だから、左の道……?)
歩き始めると、カノトさんは私の後ろをついてきた。
カノト「こっち、なんだね」
〇〇「えっと……」
私が立ち止まると、同じようにカノトさんもぴたりと足を止める。
(可愛い……まるで親鶏の後を追いかけるひよこみたい)
微笑ましい気持ちになって、私達は道を進んでいった…-。
…
……
しばらく歩いたところで、急に木枯らしが吹きつけてきて、寒さに震えた。
しかも……
(あっ!)
強い風でスカートが翻って、慌てて抑えると……
カノト「それ、寒い?」
興味深そうな顔でカノトさんが聞いてくる。
〇〇「! だ、大丈夫ですよ」
カノト「ふーん。でも、ひらひらしてる。この下に何か履いてる?」
カノトさんはスカートに興味津々なのか、てらいもなく裾を持ってめくろうとした。
〇〇「……っ!」
私は、慌ててカノトさんの手を抑えた。
カノト「……?」
きょとんと私を見つめる瞳は、どこまでも無垢で……
〇〇「めくっちゃいけないもの……なんですよ」
なるべく柔らかな口調で、私は彼にそう言った。
カノト「あ、ごめんなさい……また、やっちゃった?」
カノトさんはすぐに手を離して、首を傾げる。
カノト「僕、世間知らず?」
〇〇「え……?」
カノト「ヒノト兄とカノエ兄、僕をそう呼んだ。 大事に育てられた結果……って言ってた。そうなの?悪い子?」
〇〇「大事に育てていただいたなら、悪くはないです……」
カノト「嘘、じゃない?」
〇〇「はい。世間のことは、これからいろいろと学んでいけばいいんですよ」
カノト「僕、もっといろいろ知りたい。知れば、もっといい子になれる? きみを困らせること、したくない」
〇〇「……!」
真っ直ぐな彼の視線を受け、胸がくすぐられる。
〇〇「これから、たくさん学んでいきましょうね」
カノト「そうだね。そう、する」
息を呑むほど美しい彼の笑顔が向けられ、どきりとした瞬間…-。
〇〇「……っ」
また木枯らしが吹きつけてきて、寒さに震える。
カノト「大変!」
カノトさんが慌てた様子で、私の手を握りしめた。
(……え?)
カノト「こうすれば、寒くない」
白い彼の手は、驚くほどに温かくて……
(何だか胸が、きゅっとする……)
〇〇「……はい」
そして、私達は手を繋いだまま森を目指す冒険を再開する。
カノトさんの手の温もりが、私を木枯らしの寒さから守ってくれているような気がした…-。
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