檻から逃げ出した巨大モンスターが、ジークさんの鋭い一撃により暴れ出した。
その尾が観覧席を薙ぎ払った時…-。
ジーク「危ない、プリンセスっ!!」
〇〇「っ!?」
眼前に、モンスターの払った瓦礫が迫る。
とっさに頭を腕でかばい、硬く目を閉じた。
しかし…-。
〇〇「え……?」
いつまで経っても訪れない衝撃に怖々と目を開けば……
〇〇「あっ……!」
私の目の前には、広く大きな背中があった。
(ジーク……さん……?)
ジーク「〇〇、ご無事でしたか!?」
名前を呼ばれ、はっと我に返った。
こちらに振り返ったジークさんの、心配そうな眼差しが向けられる。
私をかばって瓦礫を受けた彼の額に、わずかに赤い血がにじんでいた。
〇〇「ごめんなさいっ、私……ジークさんに怪我を……」
負傷した額に、私は指を伸ばす。
しかし彼はその手を自らの手に取り、淡く唇を押しつけた。
ジーク「構いません。あなたが無事でいてくれたことが私にとって最上の幸福です」
〇〇「ジークさん……」
ジーク「それよりも……」
彼はすっと立ち上がると、モンスターの方に鋭い視線を送る。
近衛兵団が一丸となって、モンスターを捕縛しようと鎖を投げかけているところだった。
ジーク「プリンセス、もうしばらくだけお待ちください」
彼は地面を蹴り、捕縛の最前線へと颯爽と向かった…-。
…
……
こうして数分の後、人々を恐怖に陥れた巨大モンスターは、近衛兵団とジークさんの活躍により再び捕縛されたのだった。
鎖により地面に巨体を縛りつけられたモンスターの前で、ジークさんが息を吐き出す。
〇〇「大丈夫ですか?」
ジーク「プリンセス……」
駆け寄ると、彼は涼しげな笑みを口元に浮かべた。
私はポケットから取り出したハンカチで彼の頬についた砂埃を拭おうとして……
ジーク「どうか心配なさらないでください。あなたのハンカチが汚れてしまいます」
〇〇「でも……」
ジーク「先ほど申し上げたでしょう? 私にとってはあなたの無事が……。 いえ、その可愛らしい顔に浮かぶ微笑みこそが、私の守りたいものなのですから……」
〇〇「ジークさん……」
ハンカチを持った私の手を、彼の長い指先が包む。
その手はやはり力強く、私をどこまでも安心させてくれたのだった…-。
翌日、夕日が西の空に傾き始める頃…-。
私達はアヴァロンの王族の方達と共に、謁見の間に集められた。
城に仕える者や観覧客が騒ぐ中、アヴァロン王が手を上げると、一瞬にしてその場に静寂が訪れる。
アヴァロン王「メジスティアの王子、ジーク殿、こちらに」
ジーク「はっ」
名を呼ばれたジークさんは、王の前に進み出る。
アヴァロン王「過日の騒ぎを収めた武勲を称え、ここに剣の授与を行う」
厳かな空気が流れる中……
アヴァロン王が祝福を与えた剣が、ジークさんに授けられる。
ジーク「このようなアヴァロンの名剣をいただけるとは、ありがたき幸せ。 今後とも、この剣に恥じない強さを身につけて参ることを誓います」
流麗な言葉を紡いだジークさんが、私に視線をよこす。
すると彼は私に歩み寄り、お披露目を兼ねてか、鞘から抜き放ったその美しい剣を天高く掲げた…-。
謁見の間に集まった人々の視線が、ジークさんの持つ剣に向けられる。
〇〇「美しい剣ですね」
(まるで清廉潔白な、ジークさんの心のよう……)
見惚れるように私がため息をつくと、ジークさんは真っ直ぐな視線を私に向けた。
ジーク「〇〇姫、この剣はあなたを守る剣です。 私の愛はすでにあなたの元にありますが……。 新たに、あなたを守り続けることをこの剣に誓いましょう」
〇〇「ジークさん……」
何よりも尊い誓いの言葉が、王子であり騎士でもある彼から私に贈られる。
彼の凛々しい姿を見つめていると……
本当に彼に守られるたった一人の存在になったようで…-。
(胸がずっと鳴りやまない……)
ジーク「プリンセス、どうかお返事を……」
〇〇「……はい、あなたの忠義、確かに受け取りました」
頷くと、ジークさんは優しく微笑んで、剣を鞘にしまった。
そして…-。
〇〇「! ジ、ジークさん……?」
ジークさんにそっと抱き寄せられ、会場にどよめきが起こる。
ジーク「申し訳ありません。ですがどうか、このままで。 剣を授かり、騎士としてあなたに誓いを立てることが叶った。 あなたもそれを、受け入れてくださった。 歓喜の気持ちが……抑えられないのです」
〇〇「……はい」
たくましくもしなやかなジークさんの腕に、静かに身を委ねると、力強く鳴り響く彼の鼓動が、私の体に伝わってくるのだった…-。
おわり。