素敵な背景と物語を繰り広げながら、ローラーコースターは進んでいく…－。
（素敵……！）
流れるように過ぎる光景に、私は胸を高鳴らせていた。
ジェット「今回題材に選んだこの映画はさ、クライマックスに向っての脱出劇がすげー見どころで。 だからこそ、絶対にこういうアトラクションに向いてるって思ったんだよな」
〇〇「じゃあもしかして、これから怒涛のクライマックスが？」
ジェット「そうかもな！」
次第にスピードを上げるコースターに負けないように、ジェットさんが声を張る。
ジェット「この映画を気に入ってる奴らだったら、絶対に楽しんでもらえると思うんだ！」
〇〇「……はい！」
その時、がくんとコースターが揺れ、スピードが落ちた。
カタカタと音を立てて、コースターはゆっくりと上昇を始める。
ジェット「きた……クライマックスだ」
隣を見れば、高揚感に瞳を輝かせるジェットさんがいる。
（ちょっと怖くなってきた……）
ぎゅっと安全バーを握りしめていると……
〇〇「っ……」
ジェットさんが、大丈夫だと言うように私の手を握ってくれた。
ジェット「ビビるなって。楽しもうぜ？ 俺がついてるだろ？」
楽しそうに笑う彼の表情が、私の緊張を和らげてくれる。
そして…－。
〇〇「っ……！！」
コースターはすごい速さで滑り落ち、そしてぐるりと回転をし……
突風と目の回るような動きに翻弄されながらも、私は大迫力のクライマックスシーンを堪能した…－。
…
……
（楽しかったけど……やっぱり怖かった）
コースターから降りた後も浮遊感が体に残っていて、足がまだわずかに震えている。
ジェット「大丈夫だったか？」
〇〇「！」
急に顔を覗き込まれ、ドキリと心臓が跳ねる。
ジェット「あー……怖すぎたりしたか？」
気遣わしげな瞳が向けられ、私は慌てて首を横に振った。
〇〇「いえ！ そんなことないです。 怖かったけど、本当に物語性もあって素敵で」
言い募る私を、ジェットさんはじっと見つめている。
ジェット「……他の観客も、満足してくれるよな？」
〇〇「はい、きっと！」
ジェット「そっか……よかった！」
満足そうに再度コースターを見つめていたジェットさんだったけれど……
ジェット「あ！ わりぃ、ちょっと待ってろ！」
はっと目を見開いたかと思うと、次の瞬間にはもう駆け出していた。
（なんだろう？）
首を傾げながら、彼が戻ってくるのを待つ。
すると…－。
ジェット「……わりぃ！」
急ぎ足で戻ってきた彼の手には、一枚の写真が握られていた。
ジェット「これ、さっきフォトスポットで撮った写真。 すげー綺麗に撮れてる」
そう言われ、手元にある写真を一緒に覗き込む。
すると……
〇〇「っ……な、なんだか恥ずかしいです」
そこに映っていたのは、少し緊張した面持ちで笑顔を作る私と、私の肩を抱いて完璧な決めポーズをしているジェットさんだった。
ジェット「そうかー？ すっげー綺麗に撮れてるだろ。 まだ、皆はフォトスポットの場所知らねーから、こんなふうには撮れねーし。 最高の一枚だな」
屈託なく笑うジェットさんが、心なしかいつもより幼く見える。
（かわいいな……）
そんなことを思っていると、ジェットさんが私の体をぐいと抱き寄せた。
〇〇「！」
ジェット「見てみろよ。すっげーイイ顔！」
一気に近づいた距離に、ドキリと鼓動が跳ねてしまう。
そのことには全く気づかない様子で、ジェットさんはさらに私に顔を近づけて…－。
ジェット「これ、お前にやるよ」
〇〇「え……いいんですか？」
ジェット「ああ、俺ももう一枚プリントすっから、そしたら一緒に持ってられるだろ？」
（一緒に……）
〇〇「……嬉しいです！」
鼓動がまた速く音を刻み始めている。
〇〇「ありがとうございます」
ジェット「おう」
ジェットさんから写真を受け取り、そっと胸に抱きしめる。
ジェット「これから乗ってくれる皆も、お前みたいに笑ってくれるといいな」
〇〇「っ……」
（私……自然と笑ってた？）
ジェットさんの熱い眼差しから、目が逸らせなくなる。
〇〇「ジェットさんのコースター、最高でした。 きっと、大丈夫だと思います」
ジェット「おう、ありがとな」
彼は再び、ローラーコースターに視線を送る。
ジェット「……やめられないんだよな」
〇〇「え？」
さっきまで緩んでいた彼の顔つきが、真剣さを帯びていく。
ジェット「スリルっていうか……ドキドキするっていうか。そういう緊張感。 このアトラクションで、皆にもそういう気持ちを味わってもらえると嬉しいな」
〇〇「ジェットさん……」
低い声色で紡がれる言葉に、深く頷く。
ジェット「俺達も、本オープンの日にはまた、一緒に乗ろうな」
〇〇「はい！」
約束を交わし、見つめ合う。
次にコースターに乗る時はもっと、ジェットさんのように生き生きとした表情で写真に映りたいと……
彼の笑顔を見ながら、そんなことを思っていた…－。
おわり。
