感謝祭の前日までゴーシュくんの特訓は続き、ついに迎えた、エッグレース当日…-。
ゴーシュ「これで最後……」
最終決戦まで無事に勝ち残ったゴーシュくんが、精神統一をするように深呼吸をする。
○○「頑張って……ゴーシュくん」
ゴーシュ「当たり前だよ、絶対優勝する」
○○「うん!」
私は、自信に満ちた笑みを浮かべるゴーシュくんに笑い返す。
○○「ゴーシュくんは王子様だし魔法も使えるのに、正々堂々と頑張っててすごいよ。 とても立派だと思う……最後も落ち着いて、頑張ってね」
ゴーシュ「○○……」
ゴーシュくんが驚いたような表情を浮かべながら、じっと私の瞳を見つめた。
けれど、すぐにいつもの少しませた表情へと変わり……
ゴーシュ「安心しててよ。おれ、絶対にあんたのキス、もらうから」
○○「……うん」
ゴーシュ「じゃあ行ってくる」
恥じらいながら頷く私にひときわ輝く笑顔を見せた後、ゴーシュくんはコースに駆けて行った。
…
……
そして……
司会者「それでは、用意……スタート!」
決勝戦が始まり、応援席から大きな歓声が湧き上がる。
○○「ゴーシュくん! 頑張って……!!」
ゴーシュ「っ……」
器用にスプーンの上の卵の均衡を取りながら、ゴーシュくんが真剣な顔で走って行く。
けれど……
ゴーシュ「わっ・・・・・・!」
○○「ゴーシュくん……!」
他の走者と肩がぶつかってしまったゴーシュくんは、ぐらつく卵に気を取られて、他の走者に追い抜かれてしまう。
ゴーシュ「くっ……」
どうにか体勢を立て直したゴーシュくんが、懸命に走る。
(速い……)
積み重ねてきた特訓のおかげか、ゴーシュくんはあっという間に他の走者を抜き返していった。
そしてついに、先頭を走る走者と並び…-。
司会者「ゴーール!! 優勝はゴーシュ王子です!!」
会場から、これまでで一番大きな歓声が湧き上がる。
○○「ゴーシュくん……よかった……」
感動して思わず涙がにじみそうになった、その時だった。
ゴーシュ「○○!」
顔を上げると、表彰台の上にいるゴーシュくんが笑顔で手招きをしていた。
私は少し戸惑いながらも、表彰台へと上がり……
男の子1「ゴーシュさま、おめでとー!」
男の子2「おめでとう! すっごくかっこよかったよ!!」
会場の人々は一様に笑みを浮かべ、私の隣に立つゴーシュくんに惜しみない賛辞を贈る。
○○「私からも……おめでとう、ゴーシュくん。 私、本当にすごく感動して…-」
ゴーシュ「うん……じゃあ……。 賞品のキス、くれるよね?」
○○「えっ!? こ、ここで?」
ゴーシュ「あんたのために勝ったんだ。だから早くご褒美、ちょうだいよ」
表彰台には、多くの人々の視線が集まっていて……
私はどうしたらいいかわからず、視線を彷徨わせてしまう。
ゴーシュ「ねえほら、早く!」
少しからかうような顔で、ゴーシュくんが私を急かす。
○○「……っ」
(すごく恥ずかしい、けど……」
(……約束、だもんね)
意を決した私は、そっと彼の肩に手を添える。
そして…-。
(ゴーシュくん……)
ゴーシュ「……っ!!」
ゴーシュくんの柔らかな頬に、小さなキスを落とす。
そして、彼から体を離すと……
ゴーシュ「なっ、なんだよ!ほっぺたかよ」
○○「あ……だ、駄目だった?」
ゴーシュ「べ、別に悪くないけど……でも、せっかく優勝したのに……それだけ、かよ」
私と同じように頬を染めながら、ゴーシュくんが不満そうに言葉をこぼす。
○○「それだけって……」
ゴーシュ「いいから、はやく! もう一回!」
○○「……」
再び彼の顔に、自分の顔を寄せる。
きらきらと自信たっぷりに輝く紫の瞳は、今は忙しなく揺れていて……
ゴーシュ「……っ」
もう一度ゴーシュくんの頬にキスを落とすと、彼は体を微かに震わせる。
やがて、小さく触れた唇を離すと……
ゴーシュ「……ま、まあ! いいってことにしといてやるよ!」
言うや否や、ゴーシュくんはくるりと私に背を向けてしまう。
(……照れてる?)
後ろから覗く彼の耳は、真っ赤に染まっていた。
(かわいい……)
くすりと笑ったことを彼に気づかれないように、自分の口元を手で押さえる。
そんな私達を、暖かな陽の光と人々の歓声が包み込んでいたのだった…-。
おわり。