第3話 世の中は金!

ダヤン君の薬の調合を手伝うことになった私は、モルファーンを出て、彼のギルド『メディシナ』を訪れていた。

けれど……

ダヤン「だー――! その粉末は空気にさらしちゃ駄目! だあっ! だから駄目だって! もっとゆっくり、ゆっくーり混ぜろ!」

ギルドの中に、彼の叫び声がこだまする……

○○「ご、ごめんね。なかなか上手にできなくて……」

ダヤン「ったく。いいから、はい次!」

何故だか私はダヤン君の厳しい指導を受けながら、薬の調合の知識を教わっている。

(何か、おかしいような……)

ダヤン「ああっ! それは三回かき混ぜてストップ!!」

○○「は、はい」

途中、幾度かもう駄目かもと思いつつ、何とか薬を作り終わった時だった。

にっこりと満面の笑みを浮かべたダヤン君が…―。

ダヤン「はい! 今日の講習はこれで終了。講習料よろしく」

○○「え……!?」

(講習料??)

予想だにしなかった言葉に、呆気にとられている傍で、ダヤン君がそろばんを弾き始める。

その横顔は真剣そのものだけど……

○○「ま、待って。私、今お仕事を手伝ってたんだよね?」

ダヤン「何言ってんだ。 この貴重な処方箋を教えてやって、タダで済むはずないだろ。 ほら。計算したらざっと、講習料はこんくらいかな!」

ダヤン君は、少しも悪びれてなどいない様子で、弾いたそろばんを見せてくる。

○○「ええっ! た、高いよ」

ダヤン「高いもんか! だって、トロイメアの姫さんだろ。 これしきの金でびびってちゃ、でっかくなれねえぜ!」

へへっと笑うダヤン君に、さらに呆気にとられそうになってしまう。

(だ、駄目だよね。ここで負けてちゃ……)

○○「あの、ダヤン君。これって、その……詐欺って言うんじゃ……?」

ダヤン「詐欺なんかじゃねえやい! まっとうなことだろ。ものを教えてやって、講習料をもらうだけなんだからよ」

(うーん、その言葉だけを聞けば、まっとうなんだけど……)

○○「最初から薬の調合を教えてくれるっていう話だったら、よかったんだけど……」

ダヤン「よかったけど、けど、何だ?」

ダヤン君の顔がぐっと近づき、鼻先も触れ合いそうな距離で見据えられる。

(ち、近いよ……!)

ダヤン「いいか? 世の中金だ。金だ、金!」

○○「う、うーん……」

ダヤン「オレは、愛だの人情だの言ってるやつがいっちばん、馬が合わねえ。 あんたは優しそうだから、愛だの何だの言うくちだろ? きっとオレ達、気が合わねえよな! ふんっ」

興奮気味で、ダヤン君が言い募る。

○○「でも……まだわからないよ」

ダヤン「何でだよ」

怒ったような声で、眉間に皺を寄せて、ダヤン君は問い返す。

○○「だってまだあんまり、一緒に過ごしていないから」

ダヤン「な、何だよ……いくら一緒にいたって、同じだろっ!」

ダヤン君は、やや頬を上気させ、そっぽを向いてしまった。

その時…―。

??「た、大変ですっ! ダヤン!!」

ギルドの中に、一人の男性が血相を変え駆け込んできた。

ダヤン君の顔つきも、突然引き締まる。

(何か、起こったの……?)

尋常ではない雰囲気に、ひどく胸がざわついた…―。

 

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