太陽最終話 金で換算できないもの

閉じ込められた私達を助けてくれたのは、ダヤン君に最初に危機を知らせてくれた男性だった。

ギルドの男1「すみません、こんなことになって……」

ダヤン「別にお前は、何も悪くねえだろ」

ダヤン君が、男性の肩をポンと叩く。

ギルドの男1「ダヤン……」

ダヤン「……ま、悪いと思ってんなら、協力しろよ」

ダヤン君は、何か企んでいるかのように、にやりと口角を上げた…-。

ギルドの奥にある管理庫の前で、私とダヤン君は息をひそめていた。

ダヤン「だから、あんたまで協力することないって言っただろ。 やめるなら今だぞ」

〇〇「でも……ここまで関わったんだし」

そう言って笑いかけると、ダヤン君は困ったように頭を掻いた。

ダヤン「はぁ~……あんたって、お人好し。オレの苦手なタイプ。 言っとくけど、報酬は出ねえからな」

〇〇「うん、いらない」

きっぱりと言い切って、私は注意深く管理庫を見張る。

ダヤン「金がいらねえとか……あんたって、ほんっと……変なヤツ」

独りごとのようにつぶやかれるダヤン君の声が、耳に滑り込んできた…―。

……

ギルドの男1「あっ、誰か来ました……!」

突然、緊張感が張り詰める。

(あれ?……ダヤン君と同じ、ローブを着てる……)

その人物は、きょろきょろと辺りを確認しながら管理庫へ近づいてくる。

ダヤン「何だあれ。オレのローブを着て……」

ギルドの男1「まさかあれが犯人の……」

ダヤン君に扮装した人物が、闇に紛れるようにして移動しながら……

管理庫のドアノブに、手をかけた瞬間…―。

ダヤン「お前、何をしているっ!?」

じっと様子をうかがっていたダヤン君が、突然その人物に飛びかかった。

〇〇「ダヤン君、あぶな…―!!」

制止も空しく、あっという間にダヤン君はその人物にのしかかる。

??「うわあっ!!?」

ローブの人は、そのまま床に倒れ込み、ダヤン君に組み伏せられた。

ダヤン「オレの恰好なんか真似やがって! 顔を見せやがれ!!」

ギルドの男1「観念しろ」

暴れる人物を二人がかりで取り押さえながら、ダヤン君がフードに手をかけると……

ダヤン「お前は……」

ギルドの男2「……っ!」

(ダヤン君が犯人だって、閉じ込めた人だ……)

ダヤン「……どういうことだ」

ギルドの男2「俺だって……金が欲しかったんだよ!! ダヤンはいいよな! 長の立場を利用して、好きなだけ自分の懐におさめることができるからな!!」

ギルドの男1「ダヤンはそんなこと…―!!」

ダヤン「……っ!!」

感情の高ぶりのままに、ダヤン君は拳を振り上げた。

〇〇「ダヤン君! やめて!!」

思わず叫んでしまうと、ダヤン君の動きがぴたりと止まる。

こちらを見たダヤン君の表情は、まるで泣いているように見えた。

ダヤン「止める理由、ねえだろ」

静かに言い放たれる言葉に、胸が痛むけれど……

〇〇「殴ってしまったら……きっともっと、辛くなると思うから」

(ダヤン君が……)

ダヤン「……本当に、お人好しだな」

ダヤン君は拳をおろした。

ダヤン「後は頼む」

ギルドの男1「は、はい……!」

ダヤン君が、足早にその場を去って行く。

ギルドの男1「……ダヤン自身は、必要最低限の分しかお金を得ていません。 いつも彼の稼ぎは、ギルドの仲間への報酬や、薬の開発に充てているんです。 ああいう性格だから、勘違いされやすいんですが……」

〇〇「……」

―――――

ダヤン『いいか? 世の中金だ。金だ、金! オレは、愛だの人情だの言ってるやつがいっちばん、馬が合わねえ』

―――――

(ああ言ってたけど、本当は誰よりも仲間のことを思っていたんだ……)

こうして。濡れ衣は晴れたのだけれど……

仲間に裏切られたダヤン君の心を思うと、いつまでも胸が苦しかった…-。

……

盗難事件から一段落つき、私もダヤン君も、国を去ることになった。

ダヤン君はいつもと同じ、行商をしながら国を転々と渡り歩く。

ダヤン「あー、しかし今回は、災難だったなー」

能天気な声音で言いながら、ダヤン君が空を仰いだ。

〇〇「大変だったね……もう、大丈夫?」

ダヤン「ん? 何が?」

〇〇「だから、その……仲間に罪を着せられて……」

ダヤン「ああ、そのことか」

歯切れを悪く話す私とは反し、ダヤン君は明るくけろりと返事をする。

ダヤン「何か……どうでも良くなった」

〇〇「え……?」

ダヤン「なすりつけられるのは嫌だったし、金がなくなっちまったのも最悪だけど。 でも、まあ、世の中金だけじゃないってことも、何となーくわかったかな」

〇〇「そう……なの?」

ダヤン「ああ。あの男は、オレなんかのために鍵を開けて助けてくれたし。 あんたも、無償でオレの助けをするって言ってくれたし……。 あと、あいつを殴るのを止めてくれたし。 殴ってたら……もっと、きつかったと思う。 だから別に、悪いこともそんなに悪く感じてないっつーか」

〇〇「ダヤン君……」

胸に、温かさが広がっていくのを感じる。

にっこりと笑った彼の顔は、これまでのどれよりも屈託なく優しかった。

ダヤン「ふああ~、ねみ。あの一件以来忙しくてよ。あんま寝てないんだ。ちょっと休憩」

〇〇「えっ?」

ダヤン「いいだろ? はい、こっち来て」

〇〇「っ……!」

スチル(ネタバレ注意)

ダヤン君が、私の手を引き寄せる。

ダヤン「あー、落ち着くー」

座り込んだ私達に、暖かな日の光が降り注ぐ。

ダヤン君は、私の肩に頭を預け幸せそうに目を細めた。

そのキラキラとした瞳に、吸い込まれそうになってしまう。

(強引で、お金のことばかりで、でも優しくて……不思議な人)

ダヤン「なあ、金で換算できねえことって、本当にあったんだな」

〇〇「え…―」

ダヤン「例えば、あんたとのこの関係、とかさ」

〇〇「!」

思いがけない言葉に、私は頬を染めてしまう。

ダヤン「どうした?」

〇〇「な、何でもない……」

(どういう……意味?)

ダヤン「もう少しこのままでいろよ。いいだろ、〇〇」

〇〇「……うん」

ダヤン君の言葉の真意を尋ねてみたかったけれど……

ダヤン「……」

すぐに彼は、穏やかな寝息を立て始める。

今はただ……

肩に感じる暖かさに、かけがえのない幸せな時間を見出していたのだった…―。

 

おわり。

 

<<太陽5話||太陽SS>>