月SS 彼女への贈り物

街中で俺に濡れ衣を着せた少年を捕縛してから、数日後…―。

俺は○○に贈る花を買うため、街の花屋へとやってきた。

(しかし……どうにもこの空気には馴染めないな)

店先に並ぶ色とりどりの花はとても可愛らしく、言いようのない居心地の悪さを感じる。

(やはりいつものように、使いの者に任せるべきだったか)

これまで、公務で花が必要となる機会は何度かあったものの、こうしたものに疎い俺は、側近達に調達を一任していた。

(とはいえ、今回は公務でなはい。彼女に……○○に想いを伝えるために選ぶんだ。それを誰かに一任するのは、どう考えてもあり得ん。だが、女性に何かを贈るのは初めてだ。失敗しないといいが……)

花屋の店先で腕組みをしながら思案する。

すると、その時……

店員「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」

カミロ「えっ?ああ、いや、その……」

突然声をかけられ、思わず口ごもってしまう。

カミロ「はっ、花だ。花をくれ」

店員「えっ?」

店員がわずかに目を見開く。

(……俺は何を言っているんだ。花屋で花を買うのは当たり前だろう)

恥ずかしさを押し殺すように咳払いをした後、俺は店員に向き直った。

カミロ「すまない。贈答用の花が欲しいのだが」

店員「かしこまりました。色や種類など、何かお好みはございますか?」

カミロ「ん?そうだな、特にはない。と、言うよりも……正直、俺には花の良し悪しがわからん。ただ、その、女性には花を贈ると良いと聞いて……な」

店員「なるほど、そういうことでしたか!そうですね、では……」

店員は俺の姿を見て微笑みを浮かべた後、軒先の一角に案内してくれた。

店員「こちらに並んでいるものなどは、いかがでしょうか?どれも女性へのプレゼントにはぴったりですよ」

カミロ「ああ、綺麗だな。しかし、どれを選んだらいいものか……」

俺は数種類の花を前にして、途方に暮れてしまう。

すると……

店員「プロポーズの際などには、こちらの赤い花を選ばれる方が多いですね」

カミロ「プ、プロポーズ!?いや、待て。俺達はまだ……」

心臓が早鐘のように打ち、顔が熱を持ち始める。

(まったく、何を勘違いしているんだ。俺と○○が、そんな……だが、待てよ?俺の、この気持ちは?俺は彼女を愛しているのではないのか?それはつまり、一生を共にしたいということで……)

俺は赤い花を見つめながら、必死に考えを巡らせる。

その時だった。

カミロ「……ん?あの花は?」

視界の端で静かに揺れる白い花に気付いた俺は、店員に尋ねる。

店員「はい。あちらはウェディングブーケ用に選ばれることが多いですが、もちろんプレゼントにも適しておりますよ」

カミロ「そ、そうか」

ウェディングという言葉に、再び顔が熱くなる。

(だが、あの花は……)

風に揺れる純白の花は、清らかで、優しげで……どこか、○○を思わせるような佇まいだった。

カミロ「……」

しばらくの間、白い花を見つめた後、俺は再び、先ほどの赤い花をちらりと見やる。

そして……

カミロ「この白い花をくれ。それから、その……女性が喜ぶような形に束ねて欲しい」

店員「はい、かしこまりました!少々お待ちください」

店員は白い花を数本持って、店の奥へと消えてゆく。

その後ろ姿を見送った後……

カミロ「……ふう」

(○○、喜んでくれるといいが……)

慣れない大仕事を終えた俺は、大きなため息をつきながら、純白の花束を手に微笑みを浮かべる○○の姿を思い描いたのだった…―。

 

おわり

 

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