第3話 自由への招待

城下町のカフェバーで酔いつぶれたソルベージュさんを発見した私に…―。

赤い目をした彼は、自分を襲った悲劇というものを語り始めた。

ソルベージュ「聞いてくれるかい、○○、君に助けられた時、僕はこう思ったんだ。神は……僕をお選びになった!」

両腕をいっぱいに広げ、うっとりとした様子で、ソルベージュさんは語る。

ソルベージュ「そう心から思ったんだよ、僕のこの力は、まだソリテュードに必要なのだと……」

○○「は、はい……それで?」

ソルベージュ「だがしかし、意気揚々と城へ戻ればどういうことだ、僕の優秀な宰相が辣腕ぶりを発揮して……すでに僕がやる必要のあることなど何ひとつなかったんだ!しかも、国民の評判は僕が政治を行っていた時よりもいい……これを悲劇と言わずして何と言う」

前髪を弄びながらも、彼はがっくりと肩を落とす。

○○「ソルベージュさん……」

(つまり……プライドが傷つけられたってことなのかな?)

酔いつぶれていた理由はこのせいかと思い、私は……

○○「げ……元気を出して下さい。ソルベージュさんにしかできないことだって、きっと…―」

ソルベージュ「……ああ、もちろんだよ、聡明な僕は、気づいてしまったからね」

○○「え?」

彼はいきなり椅子から立ち上がると、スポットライトを浴びる俳優のように、片手を天井に向けて差し出した。

ソルベージュ「そう、これは……神の新しい啓示なのだと思ったね。王子という俗世の鎖から解き放たれて、大空に羽ばたけと、神が僕に言っているんだ!」

○○「か、神……?」

(何を言ってるのかよくわからない……)

すっかりソルベージュさんのペースに飲み込まれてしまい、ただうなずくだけになってしまった私を前に、彼は語り続ける。

ソルベージュ「そう、僕には夢がある……様々な世界を巡り、この世のすべてを知りたいと。またある時は、詩を詠み、歌をうたい、この世の儚さと生命の素晴らしさを人々に伝えたいと」

○○「あの……」

話の行きつく先がわからずに、私は彼に問いかけた。

○○「つまり、ソルベージュさんは何をしたいんですか?」

彼は額を押さえてしばらく考え込んだあと、そっと眉目を開いた。

ソルベージュ「決めた。手始めに、ここに幻の果実と言われるソリテュードベリーの群生地が書かれた地図がある。これを探して、世界一のアイス屋を開業しようじゃないか!」

○○「アイス屋さん……!?」

(そういえば、氷菓の国はアイスが有名だって……)

ソルベージュ「……そこでだ!」

○○「……っ!」

彼は不意に大きな声を出すと、私の体を抱き寄せた。

太陽のような笑顔を浮かべた端正なマスクが、私に近づいて……

(お、落ち着かない……)

胸の奥で心臓が騒ぎ始めると、彼は甘えるような声で私にささやいた。

ソルベージュ「ぜひ、君も一緒に手伝ってくれないかい?」

○○「む、無理です!」

思わずそう答えてしまうと、ソルベージュさんの透き通った瞳に見つめられた。

ソルベージュ「嫌いも好きのうち……そう受け取らせてもらうよ?」

(そ、そんな……)

○○「ま、待って下さい……、お城に戻らなくてもいいんですか?アルマンさんもきっと心配――」

ソルベージュ「僕にあんな狭い鳥カゴは似合わないよ!」

言葉を遮るように言って、彼は口元に上品な笑みを浮かべる。

ソルベージュ「何せ僕の才能は、世界に求められているからね。さあ、そうと決まれば出かけよう、紅き宝石ソリテュードベリーを求める旅路へ!」

○○「わ、私はまだ返事をしたわけじゃ……」

ソルベージュ「さあさあ、素敵な旅が僕らを待っているよ!ああ、楽しみだなあ」

彼は強引に私を抱きかかえると、上機嫌でカフェバーを出る。

(大丈夫なのかな……?)

不安が胸を過ぎりながらも、私は彼に着いて行かざるをえないのだった…―。

 

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