第3話 サンタクロースを求めて

キャピタさんと共にやって来たマッドネスの街は、イルミネーションの輝きに包まれていた。

幾つも立ち並ぶ高層ビルが、色とりどりの電飾をきらめかせている。

(綺麗……まるで、クリスマスの街並みみたいだけど)

街中の電光掲示板に映し出されているのは、ニューイヤー迄のカウントダウンの数字だった。

(クリスマスはないけれど……新年はあるんだ)

そんなことを思いながら、きらびやかな街の装いに目を奪われていると……

キャピタ「いつもならこの喧騒を鬱陶しく思うところだが……」

同じように街に目を向けていたキャピタさんが、ふっと笑みを浮かべる。

キャピタ「それでは、聞き込みを始めるか」

○○「あっ、はい。わかりました」

私達は街ゆく人に声をかけ、サンタクロースについて尋ねてみる。

けれど……

キャピタ「……誰も知らないようだな」

何人かに声をかけた後、キャピタさんが残念そうに煙管の煙を吐く。

○○「そうですね……やっぱりこの街の人は、クリスマス自体を知らないみたいです」

キャピタ「仕方ない。では文献を当たってみるか……」

そう言うと、キャピタさんは図書館のある方へと足を向けた。


……

古い文献のある図書館や、数件の本屋を回ってみたものの、サンタクロースに関する記述は残っていなかった。

キャピタ「……」

キャピタさんが、深く長いため息を漏らす。

○○「キャピタさん……」

(やっぱり、ワンダーメアでサンタクロースの情報を探すのは無理なのかな)

暗い気持ちで視線を落とし、雪の積もる地面を見つめる。

すると……

キャピタ「私は……会いたいんだ」

○○「え……?」

つぶやくような彼の言葉に、私は思わず顔を上げた。

キャピタ「そのサンタクロースという男に、どうしても……。 ……おかしいと思うか?」

○○「そんなことはないですよ。会えるのなら、私も会ってみたいですから」

キャピタ「貴方も? 本当か?」

○○「はい。私も子どもの頃、サンタさんを見る!なんて言って夜遅くまで起きていたことがあって。 大人になった今でも、まだ少しその気持ちが残っているというか……」

キャピタ「そうか」

不思議な色をたたえた彼の瞳が、優しく細められる。

キャピタ「本当に会えたら、聞きたいことがいろいろあるのだが……」

○○「聞きたいこと?」

キャピタ「ああ。貴方から聞いたサンタクロースの話には、不可解な点がいくつもある。 どうやって家に忍びこんでいるのだ? 煙突がない家はどうする? 彼を導くトナカイという生物……空を飛べるということだが、翼もないのに一体どうやって。 そもそも何故子どもだけにプレゼントを配るのだ? それに何故、わざわざ靴下にプレゼントを……」

○○「あ、あの……キャピタさん」

矢継ぎ早に繰り返されるキャピタさんの疑問に、私は瞳を瞬かせた。

キャピタ「靴下……。 貴方は何故、サンタクロースが靴下にプレゼントを入れるか知っているか?」

○○「え……いえ、そこまでは…―」

キャピタ「なるほど……」

キャピタさんはぽつりとつぶやいた後、モノクルを触りながら黙り込む。

そうして、少しの間の後……

キャピタ「……一つ、考えがある」

○○「考え?」

キャピタ「ああ。やはり、何の意味もなく靴下を吊り下げるとは思えない。 それが手掛かりではないだろうか」

○○「え……?」

彼の考えがわからない私は、口ごもってしまう。

そんな私の気持ちを察したのか、キャピタさんはモノクルをかけ直すと……

キャピタ「恐らくは、そのサンタクロースという御仁、靴下にひとしおの思い入れがあるのだろう。 だから、靴下を買い集める」

○○「えっ?」

キャピタ「さあ、夜が更けるまでに可能な限り集めなければ……協力してくれるだろうか?」

○○「えっと……は、はい」

私は呆気にとられながらも、意気揚々とした彼の姿に、首を縦に振る。

キャピタ「そうか。では、早速店を回ろう……と、その前に。 もしサンタクロースに会えたら、どうする?」

キャピタさんは、心なしかいつもより無邪気な顔で私にそう問いかけた。

(サンタクロースに会えたら……)

○○「お礼を言います。たくさんの夢を与えてくれて、ありがとうございますって」

キャピタ「なるほど。私には少々理解しがたいが、貴方らしいな」

○○「私らしい……そうでしょうか?」

キャピタ「ああ。質問よりも先に、礼を言うとは」

~月~

○○「握手してもらいます」

キャピタさんはそう言った後、私に微笑む。

そして……

キャピタ「では行こうか。サンタクロース好みのものが、見つかるといいが」

○○「はい」

こうして私とキャピタさんは、たくさんの靴下を買い込むべく、冬の街の中を、並んで歩き始めたのだった…―。

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