第3話 彼の心の中

並木道の間にある街灯が、淡い幻想的な光を灯している…-。

(素敵なディナーだったな)

今日も一日ルグランジュくんに街を案内してもらった私は、連れて行ってもらったレストランで過ごした時間を思い出していた。

ルグランジュ「楽しめた?」

〇〇「はい。ありがとうございます。お話聞いて、もっとこの国のことが知りたくなりました。 ルグランジュくんのお仕事も素敵だと思います。街の人達と一緒に出産を喜べたりするなんて。 幸せが二倍に増えるようで……素晴らしいお仕事だなって」

すると…-。

ルグランジュ「幸せな話なら……そうだね」

一瞬、ルグランジュくんが複雑な表情を見せる。

(どうしたんだろう……?)

ルグランジュ「あ、ううん。何でもないよ」

けれどすぐにいつもの笑顔に戻ったので、私はそれ以上何も聞くことができなかった…-。

……

それから数日後…-。

すっかり夜の帳も降りた頃、私の部屋の扉がノックされた。

(こんな遅くに、誰だろう)

恐る恐る扉を開けると…-。

ルグランジュ「……」

肩を落としたルグランジュくんが瞳を暗い夜色に染め、悲しげな様子で立っていた。

〇〇「ルグランジュくん……? どうしたんですか?」

(なんだかひどく落ち込んでるみたい……)

ルグランジュ「……う、うん……ちょっとね……」

いつもはおしゃべりなくらいに話が止まらないのに、今夜は重たく口を閉じたまま、ほの暗く瞳をかげらせていた。

(どうしたんだろう)

沈んだ表情のルグランジュくんに、私は…-。

〇〇「何か飲みますか……?」

私の言葉を聞いて、ルグランジュくんは素直に頷き椅子に座る。

ルグランジュ「ごめん……ありがとう」

小声でお礼は言ったものの、テーブルに置いたホットミルクに手をつける様子はない。

隣の椅子に座って、ルグランジュくんの疲れた顔を覗き込む。

〇〇「あの、何かあったんですか……?」

遠慮がちに聞くと、ルグランジュくんはハッとしたように顔をあげて、ぴんと張りつめた瞳で私を見つめた。

ルグランジュ「……今日は朝早くから、石板の間にこもってたんだ」

〇〇「石板の間……」

ルグランジュ「……人のこれからの生も石板で管理してるって、前に話したと思うけど。 未来のことだから……これから死ぬ人も……その原因も石板には記載されてるんだ」

〇〇「死ぬ人も……!?」

思ってもみなかったことに、私は息を飲む。

ルグランジュ「そう、系図だからね。必ずしも、幸せな話ばかりじゃない。 防ぐことができる理由なら助けてあげたいんだけど……。 未来を変えてしまう可能性があるから……絶対にできないんだ……」

ぎゅっと下唇を噛みしめる姿に、胸が締め付けられるように苦しくなる。

〇〇「ルグランジュくん……」

ルグランジュ「仕事だってわかってるんだけど……石板にそれが刻まれた瞬間は、やっぱりすごく辛くて」

想像もできないような話に、私はじっと耳を傾けることしかできなかった。

(もしそれが……知ってる人だったら)

その先を考えると、彼にかけるべき言葉を詰まらせてしまう。

ルグランジュ「……ごめん。少し話し過ぎたかな……オレらしくないよね。 今の話は忘れて」

憂いをたたえた瞳のままルグランジュくんは、切なげな笑みを浮かべた。

〇〇「……」

私は、なだめるように彼の背をゆっくりと撫でた。

ルグランジュ「っ……」

ルグランジュくんの頭が、そのまま私の肩に乗せられた。

急に感じた重みに、胸がトクンと音を立てる。

ルグランジュ「ありがとう。そうしてもらってると……少し気持ちが楽になるよ」

〇〇「もし私に話すことで楽になるのなら……いつでも話して欲しいです」

ルグランジュ「ありがとう。元気をもらえた気がする。 オレには、トロイメアの姫である君の系図は見えない。 でも、だからかな。逆に、なんかすごく……安心するんだよね。 君がいてくれて良かった」

さっきまで光のなかった瞳に、優しい明かりが灯ったように見えて、私は視線も心もとらわれ、その場から動けなくなってしまったのだった…-。

 

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