月SS 二人だけの約束

〇〇ちゃんが別の男性と結婚してしまうと知ったオレは、情けないことに、彼女と会うことを避けてしまっていた…-。

(〇〇ちゃんが誰かのものになってしまうなんて……)

(そんなのはとても耐えられないよ……)

誰かと結婚してしまうとわかってから、こんなにも彼女のことが特別だと気づくなんて……

(なんて間が悪いんだろう)

城に戻る気力もなくしたオレは、公園のベンチに力なく座り込み、もう何時間経ったかわからない。

(こんなに苦しい気持ちになるなら、〇〇ちゃんと出会わなければ良かった……)

ふとうと浮かんだそんな考えを、首を振って否定する。

(ダメダメ。〇〇ちゃんがいない時間には戻りたくないよ)

ぐすりと鼻をすすると、目頭が熱くなってきた。

(だって、一緒に過ごした時間は宝物だって、今も思うし……)

ひんやりとした夜気に首をすくめたとき……

〇〇「ルグランジュくん!」

(〇〇ちゃん……え……どうして?)

(あんまり恋しくて、幻でも見てるのかな?)

〇〇「ルグランジュくん? どうかしたんですか? 何かあったとか……?」

ぼんやりとその姿を見上げると、〇〇ちゃんは心配そうな顔で、オレの隣に座った。

(どうしよう……婚約のこと……聞いてもいいかな)

(でも、ちゃんと〇〇ちゃんの言葉で、聞いた方が諦められるよね)

そんなことを思っていると…-。

〇〇「あの…-」

沈黙に耐えかねたのか、〇〇ちゃんが口を開いた。

ルグランジュ「……結婚するんだよね」

……

それから、彼女はオレの言葉に一つずつ答えてくれて……

ルグランジュ「もしかして……オレの見た系図は、別の女の子のことだった……?」

〇〇「そもそも……私のことは見られないのでは?」

ルグランジュ「そ、そうだった! そうなんだけど、頭が真っ白になって! すごく……驚いたんだ」

恥ずかしさと、今までがあんまりに悲しかったせいで、〇〇ちゃんの顔が見られない。

それで、つい彼女に背中を向けてしまった。

(本当は顔が見たいのに……今、〇〇ちゃんの顔を見たら……)

頑なに〇〇ちゃんの方を見ないようにしていると、ふっと彼女の気配が近くなる。

(え……っ?)

スチル(ネタバレ注意)

気づくと、ベンチに置かれたオレの手に彼女の手のぬくもりが重なるのを感じた。

一瞬、オレはびくっと肩を揺らしてしまったけれど、やっぱり恥ずかしくて振り向けない。

(今、顔見たら、泣くかもしれない)

ぐっと気持ちを押し込んで、オレは精一杯の虚勢を張る。

ルグランジュ「……本当に結婚しない?」

感情がこぼれ落ちないように、自制しながら聞くと、〇〇ちゃんから、しっかりした返事があった。

〇〇「はい」

ルグランジュ「ホントの本当?」

今にも振り向きたい気持ちを我慢して、念入りに確かめると……

〇〇「はい、本当です。だって……私が好きな人は……」

(え……! 今、なんて…―?)

言葉の続きを待って、オレはごくりと息を飲む。

全身が、微かに震えている。

(誰の名前を言うの?)

そっぽを向きながらも、耳だけじゃなくて全神経を彼女に集中させる。

〇〇「……ルグランジュくんだから」

ルグランジュ「……っ」

(もう我慢できない!)

オレは彼女の重ねてきた手を、ぎゅっと握り返しながら振り向く。

そして、たまらずに〇〇ちゃんの柔らかい体を強く抱き締めた。

〇〇「……んっ」

それだけじゃ足りなくて、彼女の頬を両手で包み、キスを奪う。

一瞬だけ体が強張ったけれど、〇〇ちゃんはキスを受け入れてくれた。

(嬉しい……)

でも、心の中はもっと彼女を求めていて、オレは必死に自分を抑える。

一度唇を離して、気恥ずかしさと溢れる想いを鎮めるように、また横を向いた。

ルグランジュ「絶対、内緒で結婚しないで」

(他の誰かになんて、絶対に渡せない……)

〇〇「……はい」

ルグランジュ「約束破ったら、またキスするからね」

〇〇「わかりました」

ルグランジュ「破らなくても、キスするからね」

小さく息を飲む音が聞こえて、たまらず振り返る。

(駄目だ、抑えきれない……)

そして今度はさっきよりも、もっと深く求めるようなキスをした…-。

〇〇「……んっ」

そのまま最後まで貪りたい気持ちになったけれど、ふっとキスを解く。

〇〇「……?」

見上げる彼女の瞳がわずかに潤んで光っているのが、愛しくてたまらない。

(そんなに可愛い顔をしないで)

これに最後にしなきゃともう一度軽く唇を重ねた後、思いついたことを口にする。

ルグランジュ「オレ……勝手に誤解しちゃったのが申し訳なくて……例の二人に謝りたいんだ……。 向こうは知らないことだけど、オレが心苦しいっていうか……。 だから、今度お詫びもかねてお祝いのプレゼントを贈ろうと思うんだけど……」

〇〇「素敵ですね」

彼女はドキッとするような笑顔で同意してくれた。

ルグランジュ「じゃあ、〇〇ちゃんも一緒に行く?」

〇〇「はい。一緒に……」

はにかんだ笑顔で頷く〇〇ちゃんに、オレはまたキスがしたくなってしまう。

(やっぱり、あともう一度だけ……)

〇〇ちゃんに関すると冷静になれないオレは、完全に浮かれてしまい……

吸い寄せられるように顔を近づけ、ありったけの大好きな気持ちを込めて彼女の唇にキスをした…-。

 

おわり。

 

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