第3話 彼の知る愛

太陽が高く昇る中、私と藤目さんは、神殿へと急ぐ・・・-。

(よかった、間に合って・・・・・・)

無事に、儀式の前に到着することができた。

神殿にはすでに、婚宴の儀に出席する王族や貴族の方々が集まっている。

(ここで、藤目さんは朗読をするんだよね)

藤目「ステンドグラス越しの再会・・・・・・うん、素敵な設定かもしれない」

藤目さんは、緊張するどころか周囲を興味深げに見回して、次回作の構想に思いを馳せているようだった。

(すごいな、藤目さん・・・・・・)

そんな中儀式はしめやかに進められ、いよいよ藤目さんの朗読の順番が近づいていた。

けれど・・・-。

(あっ・・・・・・)

見ると今度は、藤目さんの襟が曲がってしまっている。

○○「藤目さん、ちょっといいですか?」

藤目「どうしましたか?」

藤目さんの手を引いて、少し屈んでもらう。

○○「・・・・・・失礼します」

襟をまっすぐに直すと、藤目さんが目を細めて微笑んだ。

藤目「・・・・・・さすが、○○さんだ。本当に奥さんみたいですね」

○○「いえ、そんな・・・・・・」

どこか楽しそうに言う藤目さんに、私はそれ以上言葉を続けられなくなってしまう。

その時・・・-。

??「・・・・・・」

(あれ?)

ふと誰かの視線を感じ、振り返る。

けれどそこには、誰の姿も見当たらなかった。

藤目「どうかしましたか、奥さん?」

○○「いえ・・・・・・勘違いでした。それより、奥さんって・・・-」

またしても顔を赤くする私に、藤目さんの優しい眼差しが向けられていたのだった・・・-。

・・・

・・・・・・

そして、いよいよ婚宴の儀が始まった。

藤目さんにより、婚宴の儀にふさわしい愛の詩が朗読される。

藤目「愛とは互いを慈しみ、律するものである・・・-」

落ち着いた声が、神殿に響き渡る。

藤目さんの愛の詩に、そこにいるすべての人々が聞き惚れていた。

(なんて素敵な詩・・・・・・)

朗読が終わった後も、私はいつまでもその余韻に浸っていた。

・・・

・・・・・・

藤目「いかがでしたでしょう」

私の元へ戻ってきてくれた藤目さんに聞かれて・・・・・・

○○「藤目さんが、すごく素敵でした」

藤目「私が? そう言われると嬉しいです」

安堵したように笑い、藤目さんが言葉を続ける。

藤目「そういえば・・・・・・この国には、運命の人を映す水鏡があるようですよ」

○○「運命の人、ですか?」

藤目「ええ。聖水に満たされた水鏡を男女二人で覗き込み、互いが運命の人であったらその姿が映ると・・・・・・」

(運命の人がわかるなんて・・・・・・少し怖い気もするけど)

藤目「運命の人が見えるなんて、大変に興味深いですよね。私の次回作のテーマの参考になりそうです」

○○「次回作のテーマは、もう決まっているんですか?」

藤目「はい、テーマは『運命の恋』です。水鏡にぴったりでしょう? ですが・・・・・・」

藤目さんは、眉根を寄せて難しい顔をする。

藤目「取材が足らないのか・・・・・・どうもこう、まとまらなくて」

その視線がやがて、神殿の奥に飾られた水鏡に向けられた。

藤目「・・・・・・水鏡を見にくる人々を観察します。何かいい発想が浮かぶような気がしませんか?」

○○「そうですね、恋人達の会話も参考になりそうですし」

藤目「やはり、○○さんもそう思いますか? ならばさっそく」

藤目さんは私の手を引き、水鏡の傍の長椅子へと腰を下ろした。

水鏡の前には、たくさんの恋人達が訪れていたけれど・・・-。

藤目「・・・・・・」

女性1「ねえ、私達見られてるのかな?」

男性2「ああ、僕も今そう思ったところだ」

真剣な表情で観察している藤目さんに、恋人達は少し戸惑っているようだった。

(神官様は大目に見てくれているけど・・・・・・藤目さんに言った方がいいかな?)

○○「藤目さん・・・・・・あまりじっくり見ると、皆さんが驚いてしまうかもしれません」

藤目「そうですか・・・・・・そうですよね。 観察に夢中になるあまり、つい配慮に欠けた振る舞いをしてしまいました」

(えっと・・・・・・)

○○「少しだけ・・・・・・」

藤目「そうでしたか。ご指摘ありがとうございます」

藤目さんは、何かを考えるように視線を宙に這わせる。

藤目「もう、たくさん観察できました。充分です。 恋人達を見ていると、想像力が掻き立てられますね。愛は、やはり幸福で温かなものだ。 やはり私は、愛を知らない恋愛小説家です」

微笑を浮かべた後、藤目さんはもう一度水鏡の方へと視線を向けたのだった・・・-。

 

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